地方税収の地域間格差是正をめぐり、総務省と東京都がさや当てを演じている。
総務省地方財政審議会の「地方法人税課税のあり方等に関する検討会」が、都市部の法人住民税収を地方に配分する提言をしたのに対し、税収を召し上げられる側の東京都が猛反発しており、2013年末の2014年度税制改正と予算編成の焦点の一つになりそうだ。
消費増税で東京都の税収は4000億円増えるので狙われた?
法人への地方税は都道府県税の地方法人事業税と、都道府県と市町村が折半する法人住民税(法人2税)がある。法人事業税は国税の法人税と同じ利益に課税するのに対し、法人住民税は法人税の一定割合を課す「法人税割」と、資本金や従業員数に応じて定額負担を求める「均等割」からなり、法人事業税と「法人税割」は赤字の企業はかからないが、「均等割」は赤字でも課税される。
企業活動をする以上、赤字企業でも道路などインフラを使うのだから、地域社会の費用を幅広く負担すべきだとの考えだ。2011年度の税収は法人事業税が2.1兆円、法人住民税が2.5兆円。法人2税は、大企業の本社が集中する東京都の税収が突出しており、都の住民1人当たりの2税の収入は、最少の奈良県の5.3倍に達する。地方税収全体の格差は、最多の東京都が最少の沖縄県の2.5倍で、法人2税の格差の大きさが目に付く。
地方間の税収格差の是正のためにある地方交付税は、国税の所得税、法人税、消費税などの一定割合を自治体に配分する仕組み。しかし、東京一極集中が進む中、格差は拡大し続けているため、2008年度から地方税の法人事業税の約4割を国税化し、税収の少ない地方に再配分するように改革した。
さらに、2014年春の消費増税に伴い、放っておいても格差が拡大する。現在の消費税は5%のうち1%が地方分で、8%に税率が引き上げられると地方分は1.7%になるが、地方交付税の交付を受ける自治体は消費増税により税収が増えるのに伴い交付税を削られることになり、財政が豊かで交付税を受けていない不交付団体は消費税収が増える分、税収が純増になるのだ。税率10%の時点では東京都の税収は4000億円増えると財務省は試算する。
そこで、総務省は地方税制の抜本改革を検討するため、昨年、検討会を設置。検討会は今年10月30日に提言をまとめ、格差拡大の是正措置として、法人住民税の見直しを打ち出した。具体的には、「法人税割り」の一部を国税化し、交付税に繰り入れて地方に再配分する案を示した。
法人住民税の一部国有化に市町村からも反発
これに猛反発したのが猪瀬直樹東京都知事。11月1日の会見で、人口1人当たりの一般財源は都が全国37位にとどまるとして「東京に財源が集中しているという事実はあたらない」と反論。「税の配分を(国が)勝手に決めるのは地方分権と逆行した話。不合理な見直しが強行されれば、福祉改革や災害対策、五輪・パラリンピックの準備にも支障が出かねない」と不満をぶちまけた。
これに対し、政府からは「東京都の社会福祉などの行政サービスが他地域に比べて充実している上、人件費が国家公務員より1割高い」(財務省)といった反論が出ている。
また、地方自治体の間では、東京都を除くと、今回の方針に反発は目立たない。もちろん、自治体の本来の立場は、国から地方への税源移譲によって全国の自治体の財政全体を豊かにしていくこと。具体的には、法人関係税を国税にする代わりに地域格差が小さい消費税(格差は最大1.8倍)を地方税にすることを主張してきており、全国知事会は10月にも、地方法人事業税の一部国税化の現行制度を「廃止等を図ることを基本として検討すべきだ」との提案をまとめたほど。
ただ、これは多分に建前。実際には今回、多くの自治体が報告書を容認し、税源移譲要求を封印した。消費税は全額を社会保障に使うと規定され、4月からの増税分の国と地方での配分も社会保障の範囲内の話で、いまさら抜本的な地方への配分増は困難だからだ。総務省も、税源移譲を進める従来方針を転換した。
8日、首相官邸で政府主催で開かれた全国都道府県知事会議では、地方法人税について猪瀬都知事が国税化反対論をぶったものの、2008年の制度変更の際は共闘した大阪府、愛知県も、松井一郎大阪府知事は特区指定による税制優遇を求めただけで、大村秀章愛知県知事は海外出張で欠席。配分を受ける側になる見込みの他の知事はこの問題に触れず仕舞いで、東京都の孤立ぶりが目立った。
一部国税化候補の法人住民税は都道府県だけでなく市町村税にもまたがるため、市町村からは疑問や反発も出ており、「関係自治体の納得が得られるものにしてほしい」(全国市長会の神谷学財政委員長=愛知県安城市長)、「市町村の基幹税目であり、到底容認できない」(矢田立郎・指定都市市長会会長=神戸市長)との声が聞こえる。年末の来年度予算編成、税制大綱決定に向け、東京都は愛知県豊田市など財政が豊かな市町村と連携して巻き返しを図る可能性もあり、議論の行方は予断を許さない。