早稲田大学商学部の新しい英語の授業「チュートリアル・イングリッシュ」に、「偽装請負」の疑いが浮上している。
新たな授業を導入するにあたり、商学部では現行の必修科目「英簿Iビジネス会話」を廃止し、担当の非常勤講師を雇い止めにするほか、授業の変更にあたり、必修科目なのに別途4万3000円を学生から追加徴収するという。
表向きは専任教員、実態は「丸投げ」と組合側
早稲田大学は2014年度から、商学部の必修科目「英語Iビジネス会話」を廃止し、代わりに早大の子会社で社長も大学職員が兼務する「早稲田総研インターナショナル」に授業をアウトソーシング(業務委託)して、「チュートリアル・イングリッシュ」という新しい授業を導入する。
この計画について、首都圏大学非常勤講師組合らは労働者派遣法に違反する、「偽装請負」の疑いがあるとして、2013年10月23日、東京労働局長に対して調査と是正勧告を求める申立書を提出した。
授業を請け負う早稲田総研の役員は早大教職員が6割を占め、テキストや成績評価などを、コーディネーターとして大学の専任教員が指揮・監督しているため、偽装請負の疑いがあるという。
組合は大学側との団体交渉で、授業を行うのは早稲田総研が雇った外部講師だが、学生を評価する権限など、表向きは早大の専任教員の名前が表記されているとし、実態は「丸投げ」と指摘している。
これに対して早大は、「授業の運営を受託する早稲田総研インターナショナルは、本学が定めた仕様に基づき受託業務を遂行しており、本学教職員が同社のチューターに対して、直接指揮命令を行なうことはなく、偽装請負はありません」と反論する。
授業内容はシラバスや履修ガイドで学生に周知しているうえ、「本学の授業担当教員は学生の出席状況や習熟度測定、履修者アンケートの内容などによって、授業の実施状況を充分に把握しており、委託先から提供されるこれらの情報に基づき、成績評価を行っています」と主張。チュートリアル・イングリッシュの授業はすでに他の学部で導入しており、問題はないとの認識だ。
きっかけは「労働契約法」の改正?
とはいえ、そもそも大学が授業を「外部委託」することに、違和感を覚える向きは少なくない。学校教育法では、「授業は学校が責任をもって行う」とされている。「外部委託」を禁じてはいないが、文部科学省は「丸投げ」は認めていない。
一方、大学の教授や講師(非常勤を含む)の中には、複数の大学を掛け持ちする人気の教授・講師がいるが、その場合でも大学とは直接契約を結び、雇用されている。
今回の騒動は、早大が非常勤講師との雇用契約を、「外部委託」への変更を理由に、一方的に打ち切ろうとしたことが発端だ。
ではなぜ、大学側は非常勤講師の「クビ」を、強行に切ろうとしたのか――。組合は、そのきっかけが2013年4月に改正された「労働契約法」にあるとみている。
改正労働契約法では、有期雇用の非正規労働者が5年を超えて勤めると、本人が希望すれば期間の定めのない「無期雇用」に転換しなければならない、としている。会社員なら正社員にしなくてはいけないということだ。
いま多くの企業で契約社員などを5年で雇い止めする動きが広がっているが、大学も例外ではないようだ。
「無期雇用」はコストアップにつながる
大学にはこれまで事実上無期限に勤務してきた非常勤講師が多く、早大の場合は教員の約6割、3000人が非常勤とされる。
組合の志田昇書記長は、「大学側は、とりあえず減らせるところから減らそうと考えています。しかし非常勤講師にすれば、生活がかかっていますから、そんな簡単なことではありません」と憤る。
早大としては、このまま非常勤講師を無期雇用すると、「正規雇用」を迫られ、クビにしづらい。また、改正労働契約法では「不合理な労働条件」を禁止している。早大の場合、非常勤講師が専任教員より授業のコマ数を多く受け持っているケースがあり、現状のまま1時限(コマ)約3万円の非常勤講師が無期雇用となった場合に、専任教員との賃金格差が違法にあたる可能性が出てくる。無期雇用はコストアップにつながりかねないわけだ。
早大は「労働契約法改正とは一切無関係です」と否定しているが、一方で4月に契約更新の上限を5年とする就業規則の改定を実施し、非常勤講師に一方的に通告。偽装請負とは別に、組合から労働基準法違反で東京労働局に告訴されている。