トヨタ自動車をはじめとする自動車メーカーの業績が急回復している。前期に比べ、円安が進んだことが最大の要因で、安倍首相の経済政策「アベノミクス」の恩恵を享受した格好だ。
好調な業績を追い風に、従業員の賃金も上がるとの期待が高まっており、2014年春闘でトヨタがベースアップ(ベア)に踏み切るかどうかに注目が集まりそうだ。
大手7社の円安効果が1兆円を超える
トヨタが2013年11月6日に発表した2013年9月中間連結業績は、売上高が前期比14.9%増の12兆5374億円、本業のもうけを示す営業利益が同81%増の1兆2554億円、純利益は同82.5%増の1兆6億円。純利益は過去最高、営業利益は過去最高だった2007年中間決算に迫る2番目の高水準だった。
2014年3月期の通期見通しも上方修正し、売上高は同13.3%増の25兆円(8月時点の見通しより1兆円増)、営業利益は同66.6%増の2兆2000億円(同2600億円増)、純利益は同73.6%増の1兆6700億円(同1900億円増)とした。市場はトヨタの予想を保守的とみており、さらに上振れる可能性もある。
今期と前期の9月中間決算を比べると、最大の違いは為替レート。今期は1ドル=99円と、前期より20円の円安で、これだけで5600億円の営業増益要因になった。海外での利益を円に換算する際、円安ほど利益が膨らむためで、自動車大手7社の円安効果は計1兆円を超えた。スズキ、マツダ、富士重工業、三菱自動車の4社は営業利益が過去最高だった。
トヨタは通期の為替レートを1ドル=97円としているが、これでも過去最高の営業利益をあげた2008年3月期と比べると17円の円高。それで過去最高に近い利益を見込むのは、同社の収益構造が「円安頼み」だけではないことを示している。同社幹部は「2008年から部品の共通化や生産性の向上を地道に積み重ねてきた」と体質改善が進んでいることを強調する。
新興国経済の減速が不安材料
もっとも、懸念がないわけではない。一つは新興国経済の減速だ。トヨタは、年間販売目標を日本で従来予想から1万台増の223万台に、北米では同2万台増の263万台にする一方、アジアは同6万台引き下げ、164万台とした。タイでは新車購入の促進税制がなくなり苦戦。インドでも、金利引き上げの影響などで市場全体が芳しくない。日産自動車は大手7社の中で唯一、中間決算が営業減益だったが、これはブラジル、インド、ロシアなど新興国での販売が想定以下だったことが大きい。
もう一つは為替相場の動向だ。アベノミクス相場で、昨年11月中旬以降、急速に円安が進み、今年5月には一時、1ドル=103円台までつけた。ところがそれ以降は概ね1ドル=95円~100円のレンジ内で推移。長期的には円安が進むと予測する市場関係者はなお多いが、想定外の円高が進めば、利益も削られてしまう。
とはいえ、予想以上の好調な実績だったことは事実。トヨタの小平信因副社長は「業績が改善すれば、従業員に還元するのは当然だ」と賃上げに前向きな姿勢を示す。しかし「具体的にどうするかは労働組合の要求を踏まえ、議論を尽くして決める」と述べ、従業員の賃金を一律で引き上げるベアについては明言を避けた。
ここ数年、企業業績が改善すれば、ボーナスなどの一時金増額で対応するというのが大企業の基本姿勢。国内企業で時価総額首位のトヨタがこれを転換し、退職金や一時金にも反映される「ベア」に踏み込むのかが、2014年春闘の行方を大きく左右しそうだ。