秋の園遊会で天皇陛下に手紙を渡した山本太郎参議院議員の行動をきっかけに、賛同者の一部からは「そうだ、皆で陛下に手紙を書こう!」といった呼びかけが出ている。
しかし、一般の国民が手紙を書いたとしても、天皇、皇后両陛下のお手元に届くにはいくつかの関門があり、そう簡単ではなさそうだ。
「窮状を訴えよう」「宮内庁に送れば届く」
約1800人もの招待客が集まった2013年10月31日の秋の園遊会。山本議員は、自ら天皇陛下に話しかけた上で手紙を渡した。子供の健康被害や食品の安全基準、原発作業員の労働環境など、福島第一原発事故後の「現状」を伝えるものだという。前代未聞の行動にさまざまな方面から「常軌を逸した行動」と批判が飛んだが、山本議員の支持者や、急進的な反原発派の一部からはこんな意見が出た。
「そうだ、私たちも天皇陛下に手紙を書こう」
「お手紙書こうかしら!グッドアイデア!」
「皆で手紙を書いてこの窮状を訴えればいい。天皇陛下は親も同然 国民は子も同然」
こうした呼びかけは現在もインターネット上でじわじわと広まっている。宮内庁宛に「日本国天皇 明仁陛下」で届く、と具体的な送り方に言及する人もいる。天皇陛下へ手紙を送るとすれば、あて先は宮内庁で間違いないのだが、果たして一国民の手紙を天皇陛下がお読みになることはあるのだろうか。
元宮内庁職員で皇室ジャーナリストの山下晋司氏は「ケースバイケースですね」と話す。
支離滅裂なもの、差出人不明は即除外
宮内庁に届いた郵便物は秘書課で仕分けを行う。両陛下への手紙も当然あるが、支離滅裂なもの、差出人が分からないものは、まず渡されることはないという。それ以外のものは両陛下のお知り合いである可能性もあるため、側近である侍従職に渡される。その後、両陛下のお手元に渡るかどうかは侍従職の判断となる。つまり、両陛下のお手元に行き着くまでには、宮内庁によるチェックを数回クリアする必要があるということだ。
ちなみに、贈り物については「譲り受けについては憲法で制限されているので、一般からの物は受け取らないようになっています。そのため、届いたものはすべてではありませんが、宮内庁から丁重に送り返すようにしています」(山下氏)という。天皇、皇后両陛下と皇太子ご一家が受け取ることのできる贈答品の総額は1年間につき計600万円で、これを超える場合、国会の議決が必要となる。そのため、普段受け取られている物は、献上品として知事から贈られる地域の特産品などに限られているのだ。
ただし例外もある。「たとえば、障害者施設や児童養護施設などをご訪問時に、手紙や手作りの贈り物などがあった場合は受け取られるでしょう」(山下氏)。実際、被災地を訪問された2011年4月には、皇后陛下が避難所にいる女性からプレゼントされた水仙の花を受け取られていた。宮内庁でも特例まで規制するわけではなく、常識的に考えられる範囲で対応しているようだ。
山本議員が天皇陛下に手渡した手紙は、厳しい表情で様子を見ていた侍従長がその場でスーツの内ポケットにしまい込んだ。11月5日の宮内庁定例会見では、手紙は事務方が預かり、天皇陛下に届けられていないことが明らかになった。