人気漫画「黒子のバスケ」を標的にした脅迫事件が、またもや発生した。「怪人801面相」を名乗る人物から、関連商品に毒物を混入したとの脅迫状が関係各所に届いたのだ。
同様の事件は2012年10月ごろから続発、イベントなどが次々と中止になるなど大きな騒動になっていた。
今なお女性人気No.1を争うベストセラー
2013年10月16日午後、女性オタクが多く集まる東京・池袋のアニメショップでは、「黒バス」を表紙としたアニメ雑誌が最も目立つ場所に陳列されていた。売り場には文具やカード、ポスターといったキャラクター製品が所狭しと並び、10代半ばと見られる女性客が、手に取った製品を真剣な面持ちで見つめる。その傍らにはキャラの「誕生日」を祝うコーナーも設けられ、愛らしい丸文字で「おめでとー!」「(別のキャラ名)と仲良くね」といったファンからのメッセージが。
黒バスこと「黒子のバスケ」は、藤巻忠俊さんが週刊少年ジャンプで連載中のバスケット漫画だ。特に「腐女子」ファンが多く、これまでに累計2300万部以上を売り上げる。女性オタクの間での作品人気は流行り廃りが激しいともいわれるが、10月からアニメ第2期が放映されていることもあり、店舗では今も「センター」級の扱いだ。
しかしこれに水を差すように15日、関連グッズを扱っているコンビニやメーカー、そして報道機関に、相次いで「脅迫状」が届いた。バンダイが製造しているおまけ付き菓子「ボイコレ 黒子のバスケウエハース2」(8月発売)に毒物を混入したとするもので、犯人は「怪人801面相」を自称、手紙には「わしは黒子のバスケ脅迫事件の犯人一味」などと記されていたと報じられている。また、作者・藤巻さんの母校である上智大学の文化祭で何らかの犯行に及ぶこともほのめかしていたという。
最初の犯人とは「別人」名乗るが…
一連の脅迫事件は2012年10月、上智大学などに不審な薬品と、「俺は藤巻忠俊が憎い」などと書かれた手紙が届いたのを皮切りに発生した。この間、犯人と思しき人物が「喪服の死神」を名乗り、2ちゃんねるの上智大学関係のスレッドに犯行の「動機」と称する文章を複数回書き込んでいる。藤巻さんのせいで自分が好意を寄せていた2人の「イケメン」と2度と会えなくなったなどという、意味不明の内容だ。全国各地で「黒バス」関係のイベントが相次ぎ中止に追い込まれ、12月には、日本最大の同人誌即売会であるコミックマーケット(コミケ)でも前例のない「黒バス禁止令」が布かれるなど、関係各所が対応に追われた。
12月以降、犯行は一旦鎮静化する。しかし明けて1月には「喪服の死神」の仲間を名乗る「怪人801面相」なる人物が2ちゃんねるに現れ、脅迫の一時中止と、新たな行動に移ることを予告、4月には「黒報隊」を称する犯人が、再び同人イベント中止を要求する脅迫状を各地に送付した。しかしその後はしばらく動きが途絶え、ようやく訪れた「平和」にファンも安堵していたのだが――
「801」は、腐女子用語の「やおい」の言い換え
「怪人801面相」はグリコ森永事件の「かい人21面相」のもじりと見られ、文面も関西弁で同事件の声明文を模したものだ。「801」は、腐女子用語の「やおい」の言い換えとしてよく使われる。「801面相」は最初に脅迫事件を起こした「喪服の死神」とは別人を名乗るが、特徴的な罵倒語など共通点も多い。「黒報隊」は朝日新聞襲撃事件の「赤報隊」と見られ、ネットでは「犯人はある程度年齢が上の人物では」との見方もある。
ITジャーナリストの井上トシユキさんは一連の書き込みについて、「漫画家などへのネット上での『粘着』行為は、過去に実際なんらかの形で接触があった人物が行っているケースも少なくない。ただ、『喪服の死神』や『怪人801面相』といった名乗りを見ると、犯人の『妄想』が強いのではないか、という印象も受ける」と語る。
脅迫状が届いたセブン‐イレブンなどによれば、現時点では製品から不審物は発見されていないという。ただ、今後の取り扱いについては、警察との相談の上決めるとしており、「再登場」がいつになるかは不透明な状況だ。