にらみつけるような目の女の子をモチーフにした作品が有名な美術作家・奈良美智さん(53)が、自身の作品のファンが米画家クリスチャン・ラッセンさん(57)のファンと同じだとされたとして、不満を露にしている。
クリスチャン・ラッセンといえば、イルカやクジラを題材にした作品(マリンアート)を制作し、バブル期の日本で大ブームを巻き起こした画家だ。奈良さんはよほど心外だったようで、ツイッター上では「つうか、俺、ラッセン大嫌い」「ほんとにそうだったら、発表を辞めます。本気で」と大胆発言まで飛び出した。
「村上は戦略的にアートの中枢に入っていたが、それが嫌われる」
「奈良さん好きな人とラッセン好きな人は同じだと思う」――。事の発端は、東京・京橋のギャラリー「ギャラリーセラー」のディレクター、武田美和子さんによる発言だ。武田さんは2013年9月25日、現代美術家・中ザワヒデキさんによる講義イベントに出演。ラッセンに関する本をテーマに編者の原田裕規さんとともに鼎談した。
その中で、あるツイートに話が移った。ツイートは、武蔵野美術大学の一部学生達に好き・嫌いなアーティストを聞いたところ、嫌いなアーティストのトップに村上隆さんが選ばれ、草間彌生さん、会田誠さんらが続いたという内容だ。普段、有名な現代アーティストとして彼らと名を連ねることの多い奈良さんは入っていない。すると武田さんは「でも奈良さん好きな人とラッセン好きな人は同じだと思う、私は」と話し始めた。「マーケティングのプロモーションとしてラッセンと奈良は同じ」として、村上さんや草間さんと同じ(中枢の)マーケットにも一応入ってはいるのだがラッセンのほうが近い、と説明する。多くは語らなかったが、武田さんはアンケート結果をみて納得しているようだった。
講義を実況ツイートしていた人物が、9月28日、「村上は戦略的にアートの中枢に入っていたが、それが嫌われる」とコメントを添えて投稿すると、これが奈良さんの目に留まった。そして「武田さんの発言は、なんだか心外だなぁと思います。僕の作品が好きな人に統計をとってみてほしいですね~。ほんとにそうだったら、発表を辞めます。本気で」と不快感を示した。
「自分の作品のファンを侮辱している」と怒りの連投
気持ちは治まらず、「つうか、俺、ラッセン大嫌い。ああいう平和頭の理想的自然志向は理解できない。自分はもっとリアルな現実という壁に向かって立っている」とラッセンの作品やテーマについて、正面からの否定的なコメントも飛び出した。さらには、奈良作品とラッセン作品どちらも好きというフォロワーがいれば理由を聞かせてほしいと投げかける。さっそく奈良さん宛てに多数の返信が寄せられたが、「奈良さんとラッセンを同列にするなんて、ひどい話しだ。僕もラッセンは全然好きじゃないです」「奈良さんとは対極にいると思いますけど?」など、その大半がアンチ・ラッセンでのものだった。
奈良さんはその後も「わかるひとだけ、わかればいい!と言ったけれども本心は伝わると信じて描いています。だから、それが思ったように伝わってなにのであれば、自分の意思で描き続けはするが、他者に向けて発表する意義はないじゃないか・・・」などとツイートを繰り返す。そして「この発言(武田さんの発言)は、自分の作品を好きでいてくれる人たちを侮辱していると、強く思ったので、先の連投になった」と、締めのツイートで熱くなった理由を明かした。
ラッセン作品は「ヤンキー受け」する?
ところで、これほど嫌われるクリスチャン・ラッセンはどんな存在なのだろうか。色鮮やかで写実的なラッセンの作品は「よく分からない」と思われがちな現代アートと対照的で、アートに詳しくない人たちにも広く受け入れられてきた。しかし圧倒的な知名度と人気を誇る一方で、これまで正面から論評されることはほとんどなかった。市場価格と比べて高額な値段で売る「絵画商法」との批判があったほか、現代美術界からは「インテリア・アート」として本流とみなされなかったことが要因とも考えられている。
「ラッセンとは何だったのか?消費とアートを越えた『先』」(2013年6月発売)にも寄稿している大野左紀子さんは、自身のブログ(08年4月21日)でラッセンは「日本人のヤンキー心に訴えた」と分析する。ここでいうヤンキーとは「どんなに頑張っても今いち垢抜けず安っぽい趣味に染まりやすい田舎者」を指す。「ラッセンの絵は日本的な癒しや郷愁とはかけ離れているかもしれないが(略)ヤンキーの趣味には意外にも合致。むしろヤンキーにとっての癒しがラッセンに凝縮されている、と言ってもいいくらいの感じだ」と解説している。
ちなみに当のラッセンは現在、来日して個展を開催している最中だ。9月14日には片山さつき参議院議員と面会し、「クールジャパン」について話し合ったとスタッフがブログで報告している。