高齢化社会で脹らむ一方の「老人コスト」は万国共通の課題だが、欧州では「現代の姥捨山」ともいえる構想が持ち上がり、波紋を広げている。高齢者を北アフリカに移住させるというのがその構想だ。
ここまで極端ではなくても、ドイツではすでに高齢者が隣国ポーランドの施設に入所するケースが報道されており、コストの安い国に「老人輸出」する動きはすでに具体化しているようだ。
「モロッコの方が住宅費、医療、社会保障費がずっと安い」
ジュネーブの英語専門局「ワールドラジオ」や地元紙「ジュネーブ・トリビューン」が2013年9月下旬に報じたところによると、構想を披露したのは与党・スイス国民党のイブ・ニデッケル議員。アフリカ北部のモロッコに居留地を作って、年金受給者や亡命希望を断られた人を住ませる、というのがその内容だ。ニデッケル議員は、
「モロッコの方が住宅費、医療、社会保障費がずっと安く、(自らが地盤とする)ジュネーブにとって経費節減になる」
と、その理由を説明した。また、居留地が雇用を創出するため、若いモロッコ人にとっても利益になるとも説いた。ニデッケル議員は、ウエリ・マウラー大統領もこの構想を支持していると主張している。
物価の違い以外に、ジュネーブでもモロッコでもフランス語が使用されていることも背景にあるとみられる。現地報道からは、自発的な移住を促すのか、ある程度強制的に移住させるのかは明らかではない。
すでにドイツでは「老人の輸出」が問題化
ジュネーブとモロッコとでは直線距離にして1900キロ程度あるが、隣国同士、とりわけ介護が必要な高齢者にとっては、この動きはすでに現実化しつつあるようだ。ブルームバーグは13年9月16日、ドイツの認知症の女性(94)がポーランドの介護施設に入所したケースを紹介している。ドイツでは、このような「老人の輸出」が問題化しており、ミュンヘンの主要紙は「老年植民地主義」と批判しているという。それでも国民にとっては、背に腹は代えられないようだ。ポーランドの介護施設の場合、ドイツと比べて費用が3分の1に抑えられるということもあって、調査会社「TNSエニムド」の調査によると、5人に1人が国外で介護サービス利用を検討しているという。
欧州委員会の12年の調査によると、ドイツ人の長期介護にかかる費用は、現在は国内総生産(GDP)比1.4%なのに対して2060年には3.3%に大幅に増える。このような背景もあって、今後「老人の輸出」がさらに加速しそうだ。