中国経済のゆくえが懸念されている。背景にあるのは、「シャドーバンキング」(影の銀行)と呼ばれる、信託会社(ノンバンク)による融資や、「理財商品」という銀行が簿外で提供する小口の資産運用商品を使った仕組みだ。
その実態は中国政府も十分に把握できていないとされ、米格付け大手のムーディーズ・インベスターズによると、2012年末には4兆7000億ドルに膨らみ、中国の国内総生産(GDP)の55%に達したという。
「中国発」金融危機を懸念する報道やレポート
「中国シャドーバンキングの闇」(ニューズウイーク日本版2013年8月6日付)や「中国の地方政府、シャドーバンキングで膨らむ債務」(ロイター通信8月 26日付)、「墜ちる中国 世界に伝播する経済危機」(週刊エコノミスト9月17日号)――。このところ、「中国発」金融危機を懸念する報道やレポートを多く目にする。
シャドーバンキングが拡大する背景には、リーマンショックに伴い実施された4兆元の景気刺激策がある。これにより地方ではインフラ整備や都市開発が加速したものの、投資効率の低下を懸念した中央政府は一転、金融引き締め策に転じた。
その結果、融資基準が厳しくなり、通常の銀行融資を受けられない企業を中心に、ノンバンク経由の「迂回融資」を利用するケースが増えた。一方、投資家は高利回りの資産運用商品を求めるようになり、「信託商品」や「理財商品」は人気を集めた。
すでに信託会社は、中国の金融セクターの資産規模で最大の商業銀行に次ぐ規模を誇る。ロイター通信が、信託商品や理財商品などのデータを収集するリサーチ会社、Use‐Trust Studioから入手した、2012年に行われた総額2340億元(1166件)の信託融資を分析したところ、12年に実施された信託融資の総額3兆元の約8%が「影の銀行」に相当するという。
こうした資金の運用先は、主に地方政府の不動産やインフラ投資。ところが、新たなプロジェクトや設備投資などの経済活動のために使われたのはわずか半分とされ、残りは過去のプロジェクト資金の借り換えなどに充てられている。なかには。高い融資金利のため債務の返済が困難になった企業も出てきているようだ。
富士通総研の主任研究員、柯隆氏は週刊エコノミストで、「地方政府の債務が焦げ付けば、銀行のバランスシートも壊れる」と指摘している。
地方の多くのプロジェクトが破たんすれば、銀行や信託会社は大きな不良債権を抱えることになり、日本のバブル崩壊の「二の舞」になる。
「理財商品」はサブプライムに似ている
一方、貸出債権を小口化した「理財商品」について、日本アジア総合研究所は「中国の新たなリスク」と指摘する。中国・銀行業監督管理委員会によると、理財商品の2013年3月末の残高は8兆2000億円にものぼる。中国の12年の名目GDPの約16%、人民元預金の約12%に相当するところまで膨らんだ。
前出の富士通総研の主任研究員、柯隆氏は、「理財商品は投資家側のリスクによる投資であり、銀行にとってはオフバランスのビジネス。これまで金融監督当局も見て見ぬふりをしてきた」(週刊エコノミスト)という。
「信託商品」と同様、「理財商品」に投資していた個人や企業も、運用先のプロジェクトが破たんすれば投資資金は戻らない可能性がある。貸出債権の一部を証券化して個人に販売するような仕組みは、米サブプライムローンと似ているので、「中国版サブプライム」と揶揄する向きもある。
ニューズウイーク日本版は、「急成長する『影の銀行』は中国経済の潤滑油の役割も果たしているが、このままでは米国のサブプライムと同じ運命をたどりかねない」と指摘する。