1936年、ベルリン五輪で「日本代表」として金メダルを獲得した朝鮮半島出身のマラソンランナー・孫基禎(1914~2002)をめぐり、韓国でGoogleへの怒りの声が渦巻いている。検索結果ページで、孫の国籍が「日本」と表示されるのが許せないというのだ。
「韓国マラソン界の英雄・孫基禎、国籍は日本?」
「孫基禎、国籍が日本? Googleが『検索エラー』」
ベルリン五輪、胸の「日の丸」事件
韓国の大手紙・朝鮮日報や聯合ニュースが、相次いでこんな見出しを掲げたのは2013年9月13日のことだった。
問題となっている孫基禎は日本統治時代の朝鮮に育ち、1936年に日本代表としてベルリン五輪に出場、見事金メダルを獲得した。その優勝は朝鮮の人々の愛国心を刺激し、当時の東亜日報が孫のユニホームに描かれていた「日の丸」を消した写真を掲載、1年近い停刊処分を受けた事件は、日本でもよく知られている。戦後は韓国建国で韓国国籍となり、韓国陸連会長なども務め、「民族的英雄」として今なお尊敬の的だ。
そんな孫基禎の名前をGoogle検索した際の結果に、許しがたい「エラー」があることに1人の韓国人が気付いた。与党・セヌリ党の国会議員で、孫基禎記念財団の理事長を務める金聖泰氏だ。
Googleでは、2012年以降検索結果ページの右側に、その検索ワードについての情報を表示する「ナレッジグラフ」機能を導入している。この情報はWikipediaなどネット上に存在するデータベースを元に生成されるもので、たとえば人物の場合、顔写真のほかその簡単な略歴や生没年などが示される。
孫基禎についても同様の結果が出るのだが、金議員が問題視したのはその「国籍」の欄が「日本」とされていたことだ。
「日帝占領期で心ならずも日の丸を付けて走ったとはいえ、孫基禎の国籍が韓国だということは、我が国では常識だ」(聯合ニュース)
金議員はただちにGoogle側に抗議を行い、修正を求めた。しかし朝鮮日報などの報道によれば、Googleは「情報修正に関わる業務は行っていない」とこれをはねつけたという。憤慨した金議員はこの事実をメディアに公表、
「政府が働きかけを行うなど、この問題は国を挙げて解決せねばならない」
と訴えた。
IOCサイトなどにも同様の抗議
孫基禎をめぐってはこれまでも、韓国側がさまざまな場面で同様の抗議を行い、「日本代表」だったことを「なかったこと」にしようとしている。
特に国際オリンピック委員会(IOC)に対しては、各種データベース上での国籍表記を、「韓国」とするよう強力に運動してきた。1970年には韓国議員がドイツで、ベルリン五輪の記念レリーフから「JAPAN」の表記をノミで削り、代わりに「KOREA」と彫りこむ事件を起こしているほどだ(その後、元通りに修正)。こうしたアピールの結果、現在のIOCサイトでは所属こそ「日本」となっているが、これをめぐる歴史的経緯、また上記の「日の丸修正事件」などについても解説されるようになった。
なおこの問題の報道後、韓国語版Googleで「孫基禎」を検索すると、問題となった「国籍」の項目自体が表示されなくなっている(17日現在)。GoogleはJ-CASTニュースの取材に対し、ナレッジグラフの情報が間違っている場合、ユーザーはウェブを通じて誤りを指摘することができる、としたが、上記の孫基禎問題については回答がなかった。