歴史教科書の記述が問題になるのは日本だけではなく、お隣韓国でも同様だ。保守派の学者が執筆し、検定に合格したばかりの教科書の記述が「右より」だとして批判が広がっている。
教職員組合などは検定合格の取り消しを求める声明を発表し、抗議デモも行われた。だが、どういう訳か、その場所はソウルの日本大使館前。かなり的外れな形で日本がとばっちりを受ける事態になっている。
「ニューライト」と呼ばれる保守系の学者らが執筆
問題となっている教科書は高校の歴史教科書で、教学社が発行。「これまでの歴史教科書は『左寄り』」だと主張する、「ニューライト」と呼ばれる保守系の学者らが執筆した。
教育省は2013年8月30日、教学社を含む申請があった8社の教科書すべてが「国史編さん委員会」による検定審査に最終合格したと発表。ニューライト系の学者が執筆した教科書が検定に合格するのは初めてだ。早い学校では9月6日にも学内の採択手続きが始まり、14年3月から利用が始まる予定だ。
だが、実際に教学社の教科書が教育現場にお目見えするまでには、さらに紆余曲折がありそうだ。
これまでの教科書では扱われていなかった北朝鮮の核開発問題や人権問題も盛り込まれており、かなり目新しい内容だが、問題視されている論点は多数ある。例えば、植民地時代にインフラが整備され近代化が進んだという「植民地近代化論」が押し出されている点。韓国では植民地時代の日本の施策はすべて「悪」だとみなされるため、このような議論には反発も多い。
1910年の日韓併合前の記述にも異論が出ている。1895年の閔妃暗殺事件については、実行部隊の小早川秀雄の手記を紹介し、「当時の日本は明成皇后(閔妃)を殺害する過激な方法を選択するしかありませんでしたか?」という問いもつけた。このことが事件を肯定的にとらえているとして批判を受けた。
1909年にハルビンで伊藤博文を暗殺したとして韓国では英雄だとされている安重根(アン・ジョングン)についても扱いが小さい上、教科書の最後にある索引(インデックス)から抜け落ちている点も問題視された。
第二次大戦後の記述では、「独裁者」として否定的に評価されている李承晩初代大統領を肯定的に描いたり、朴槿恵大統領の父親である朴正煕元大統領による軍事クーデターや、民主化運動の弾圧を正当化しているとの指摘も出ている。
軍需工場の労働と従軍慰安婦を同列に論じる
日本にとって「とばっちり」となっているのが、いわゆる従軍慰安婦問題に関する記述だ。全国教職員労働組合(全教組)は9月4日、検定合格を取り消すべきだとする声明を発表。声明では、
「教学社教科書は(軍需工場で労働させられた)勤労挺身隊と(性的労働を強いられた)慰安婦を区分せず、(日本の植民地統治に手を貸した『親日派』としての評価が定着している)東亜日報創業者である金性洙(キム・ソンス)氏を抗日者として扱い、(朴正煕氏による)クーデターと(戒厳令を出した10月)維新を正当化するなど、裁判所の判断や学界の一般論に反している」
と主張した。つまり、軍需工場での強制労働と従軍慰安婦問題を十把一絡げに記述し、従軍慰安婦問題を矮小化しているとして、世論が反発しているという訳だ。
これを受ける形で、関する抗議デモが9月4日、どういう訳かソウルの日本大使館前で行われた。従軍慰安婦問題をテーマに毎週行われている「水曜デモ」の一環だから、というのがその理由のようだ。
京郷新聞によると、デモに参加した韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)のユン・ミヒャン常任代表は、教科書の記述について
「嘆かわしいこと」
と批判した上で、
「政府は教科書検定過程を明らかに公開して過ちを認め、謝罪しなければならない」
と主張。デモを主催した韓国労働組合総連盟(韓国労総)は、
「韓国政府さえ慰安婦問題解決に積極的に取り組まない状況で、どうして日本政府の責任ある姿勢を期待できようか」
との声明を発表した。今回ばかりは、実際に矛先を向けられたのは韓国政府だったようだ。