「ふるさと科」が復興の支え【岩手・大槌町から】(10)

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吉里吉里中学校の郷土芸能発表会で公演された「吉里吉里鹿子踊」(大槌町総合政策課提供)
吉里吉里中学校の郷土芸能発表会で公演された「吉里吉里鹿子踊」
(大槌町総合政策課提供)

   大槌町の吉里吉里中学校で2013年7月10日、郷土芸能発表会があった。地元に伝わる吉里吉里鹿子踊(ししおどり)、吉里吉里大神楽(だいかぐら)、吉里吉里虎舞(とらまい)が、全校生徒により上演された。大勢の地元の人たちが見守り、保存会の人たちが太鼓をたたいたり、笛を吹いたりして支えた。大槌町を訪れていた下村博文・文部科学相は発表会を鑑賞し、こうあいさつした。「ふるさと科を日本に、世界に発信してほしい。ピンチをチャンスにして、すばらしい大槌をつくってほしい」


   「ふるさと科」。大槌町内の小、中学校で、全国に例を見ない取り組みが進んでいる。子どもたちに、震災で失われた郷土を見つめ直してもらい、復興への力にしたい。2015年4月に完全導入される小中一貫教育の柱として位置づけられている。正式科目になるのは、この年からだが、学校と地域が協力し合いながら、すでに様々な試みが始まっている。吉里吉里中の郷土芸能発表会もその一環だ。中学校の生徒たちに郷土芸能に親しんでもらい、保存、継承し続けていこうという地元の人たちの思いと、その取り組みを「ふるさと科」の実践例にしようという学校側の考えが一つとなって実現した。

発表会では「吉里吉里虎舞」が勇壮に舞われた=2013年7月10日、大槌町立吉里吉里中学校の体育館
発表会では「吉里吉里虎舞」が勇壮に舞われた
=2013年7月10日、大槌町立吉里吉里中学校の体育館

   東日本大震災により大槌町の教育環境は激変した。震災に伴う他市町村への転入に伴う児童・生徒数減。仮設設住宅から通う子供たち。大槌小、安渡小、赤浜小、大槌北小の旧4校が統合され2013年4月にスタートした新生大槌小も、大槌中も、仮設の校舎。大槌町は、震災後の、この厳しい教育環境を小中一貫教育で乗り切ろうとしている。


   小中一貫教育では、9年間を「ホップ期」(1~4年生)、「ステップ期」(5~7年生)、「ジャンプ期」(8、9年生)の3段階に分ける。小学校から中学校に移行する際の段差を低くし、「中1ギャップ」の解消をめざす。「中1ギャップ」とは、小学校から中学校に進学する時に、学習内容や生活のリズムの変化になじめず、いじめが増えたり、不登校になったりするケースを指す。

   また9年間を通じて、一貫したカリキュラムを組めることができ、学習や体力向上に向けて継続して取り組むことができる。新設された「ふるさと科」では、郷土愛や生きる力を育む。防災への理解を深め、災害時の判断力、実践力を育てる。


   大槌町内の小、中学校は、現在、大槌小、吉里吉里小、大槌中、吉里吉里中の4校。町の小中学校再編スケジュールでは、2013年4月から小中一貫教育への試行期間が始まり、2015年度に完全導入がはかられる。具体的には、2015年4月から、大槌小と大槌中は小中一貫教育校「おおつち学園(仮称)」となり、吉里吉里小と吉里吉里中は「きりきり学園(仮称)」となる。

大勢の地元の人たちが発表会を鑑賞した=2013年7月10日、大槌町立吉里吉里中学校の体育館
大勢の地元の人たちが発表会を鑑賞した
=2013年7月10日、大槌町立吉里吉里中学校の体育館

   2013年度から試行期間が始まり、多くの試みがなされている。吉里吉里中の郷土芸能発表会は、「ふるさと科」の一環だし、6月11日に行われた大槌小と大槌中との合同避難訓練も、小中一貫教育に向けた取り組みだった。訓練では、中学校の生徒が小学校の児童の手を引いて避難した。また、2013年度4月の人事異動から、大槌小と大槌中、吉里吉里小と吉里吉里中の教諭は兼務で発令され、小学校の理科や英語の授業で、中学校の教諭が教えるといった試みが進んでいる。


   伊藤正治教育長は「津波で何も無くなったけれど、先達たちが営々と築いてきた歴史、文化、伝統がある。『ふるさと科』では、その精神風土を学び、未来に、つなぐ役割を期待したい。故郷に誇りを持ち、東京で学んだとしても、学んだことを生かすために戻ってくる子供たちを育てたい」と話している。

(大槌町総合政策課・但木汎)


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