夏のコミケに総計59万人が集まるなど、日本の漫画・アニメ業界における「同人誌」などの二次創作活動は、ますます盛んになっている。ところがそうした活動が「一部を除き」禁止されるという噂が流れ、一時ネットでパニックが起こった。
噂の発端となったのは、「同人マーク」なるものの誕生だ。ところがその目的は、噂とまるで反対だともいう。いったい同人マークとは何なのか。
同人マークがない漫画は二次創作NG?
「『同人マーク』が決定 このマークがないと二次創作を売っちゃいけません」
夏のコミケから1週間後の2013年8月18日夜、にわかにこんな怪情報がネット上で流れ始めた。発信源は2ちゃんねるで、「同人マーク」なるもののデザインが16日決定した、ついてはこのマークがない同人誌などは今後販売できなくなる、というのだ。
漫画・アニメなどの登場キャラを題材に、ファンがイラスト、漫画、動画などの二次創作に熱中する――今や珍しくもない光景だが、こうした活動の多くは著作権的には実は「グレーゾーン」だ。現在は作家や出版社などの「黙認」に近い形で頒布が行われる、かなり際どい状況に過ぎない。そのため今回の「同人マーク」情報も現実味を持って受け止められ、ツイッターなどではたちまち悲鳴が広がった。
「同人マークって初めて聞いたが これから同人マークある漫画とか以外は二次創作禁止になるのか」
「うわあああああああああああ」
「このマークってビデ倫シールみたいなものか? こんな大事なこと、いつの間に決まったんだろう?」
こうした混乱に対し、「同人マーク」を策定した特定非営利活動法人コモンスフィアの野口祐子弁護士は、ツイッターでこう説明した。
「同人マークは、積極的に二次創作OKという意思表示をしたい作家様のためのマークです。何もマークを付けていない作家様のお考えを表示する効果は全くありません。つまり、二次創作禁止という意味があるものではないのです。このマークのない作品については二次創作が出来ないのでは、というご心配の声を沢山頂いていますが、誤解です。マークのついていない作品については、従来と何も変わりません」
同人誌とTPPの意外な関係
なぜ、わざわざこうしたマークが作られたのか。理由は「TPP」だ。
環太平洋経済連携協定(TPP)に日本が参加した場合、著作権侵害が現在の親告罪から、非親告罪に移行する可能性が指摘されている。上記のように現在、同人誌などの二次創作は作家や出版社の黙認によって成立しているが、非親告罪となった場合、こうした慣習を無視して取り締まりが行われることが懸念される。
作者には自らも二次創作の筆を取る人も多く、出版社にとっても厳しい規制は本意ではない。そのため、あらかじめ作家・出版社側が二次創作を一定のルール下に「公認」し、取り締まりの枠から外す――それが同人マーク策定の狙いだという。
なおマーク採用「第1号」として、プロジェクトの旗振り役である漫画家・赤松健さんの連載が「少年マガジン」で8月末から始まる予定だ。赤松さんはこの「実験」で効果を見定めた上で、今後本格的な広報・周知活動を行うとしている。