マレーシア東部の都市、コタキナバルで2013年7月に開かれた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉会合に日本は参加を果たし、いよいよTPP交渉の第一歩を踏み出すことになった。関税分野では各国の協議がほとんど進んでいないことが判明、日本が最も重視しているコメなどの「重要5品目」の関税維持にも可能性が残っていることが分かった。
しかし、関税交渉が進展していないのは、利害対立の激しさの裏返しでもあり、日本にとっては厳しい交渉の現実が突きつけられたともいえる。
困難な案件は、各国間の議論に相当の開き
「(関税などの自由化交渉は)どう交渉していくかも含めて、ようやく緒に就いた程度ではないか」。鶴岡公二・首席交渉官は交渉会合終了後の記者会見でこう語った。
今回のマレーシア会合は7月15日から11日間の日程で開かれたが、日本が参加できたのは最終段階の23日午後~25日の2日余り。米議会の手続きを経なければ正式参加が認められなかったためで、事実上、実質的な交渉にはほとんど入れなかったといえる。そんな中で得た最大の成果が、関税問題については協議がほとんど進んでいないという実態の把握だった。
日本はTPP交渉に当たり、コメ、麦、牛肉・豚肉、サトウキビなどの甘味資源作物、乳製品の「重要5品目」を関税撤廃の例外とするよう求める方針を決めている。しかし、TPPは「高い水準の自由化」を掲げており、関税撤廃が原則だ。既に関税交渉が大きく進展し交渉の余地が残っていなければ、日本は極めて厳しい立場に立たされるところだった。
鶴岡首席交渉官は「困難な案件については、各国の間で議論に相当開きがある。日本として、今後の実質的な議論に参加することは十分可能だ」と強調、農業分野の「聖域」を確保するための交渉にはまだ間に合うとの認識を示した。
交渉参加国は早期妥結へ意欲
しかし、交渉の先行きは決して楽ではない。鶴岡首席交渉官は「日本の立場を知らない人は1人もいない」と述べ、「重要5品目」の死守を狙う日本の方針は既に全交渉参加国に知れ渡っていると指摘した。だが、「聖域確保」に理解が得られているわけではない。逆に、議長国であるマレーシアのジャヤシリ首席交渉官が記者会見で繰り返し述べたように、「『包括的自由化』を定めた2011年のホノルル宣言に戻るべきだ」との主張が根強いのが実態だ。
一方、今回の交渉会合で、9月に予定されていた次回会合が8月に前倒しで開催されることが決まるなど、交渉参加国は早期妥結への意欲を強めている。交渉参加国は従来から「年内の妥結」を目指すと主張しており、交渉の加速を図るため、次回会合の冒頭には閣僚会合を開く検討も進められている。こうした中、「聖域確保」を目指すあまり、日本が交渉の進展を遅らせる挙に出る(と疑われる)ようなことは許されないのが実情だ。
短期間でいかに各国の出方を見極め、交渉のカードをうまく切ることができるか。慎重、かつ的確な交渉力がこの先数カ月、求められることになる。