パナソニックが発売したスマートテレビ「スマートビエラ」のテレビコマーシャル(CM)の放映を、民放各社が拒否したと報じられた。
スマートビエラでは、画面上に、ある程度目立つ形でネット機能が設定されている。テレビ番組を視聴しながらインターネットで動画やウェブサイトの閲覧を楽しむためだが、テレビ局側は「放送局が提供する番組とネットコンテンツが混在すれば、視聴者の混乱を招くというのだ。
今後のCM放映については民放各局と協議中
パナソニックは公式サイトで、スマートビエラのCM映像を配信している。親子3人がリビングで、リモコンや自分の声を使ってテレビのチャンネルを変えたり、ネット検索したりする様子が分かる。見ていて不快な映像ではなく、なぜこのCMが「放送禁止」なのか視聴者の立場では理解できない。
パナソニック広報に電話取材すると、CM放映を拒否されたのが事実かを含めて「コメントは差し控えます」とだけ話した。ただ商品が発売されたのは2013年4月。新製品で、しかも次世代の主力商品になるであろうスマートテレビのCMが発売以降テレビでは1度も流れていないうえ、今後の放映についても民放各局と協議中で現段階では未定というのは何とも不自然だ。
2013年7月7日の読売新聞電子版によると、放送局が共同で策定したガイドラインでは、「テレビ起動時、テレビ映像を画面全体に表示するのが望ましい」と明記しているという。だがスマートビエラの起動時画面を見ると「放送中のテレビ番組」が画面の半分以上を占めている一方、同じ画面の右側や下には動画投稿サイト「ユーチューブ」や無料ネット電話「スカイプ」、交流サイト、ウェブブラウザのアイコンが表示されている。スイッチを入れれば画面いっぱいに番組映像が広がる従来のテレビにはないつくりだ。
読売新聞の記事中にあるガイドラインとは、2007年8月28日付、地上放送事業者連絡会とBS放送事業者連絡会の連名で出されたものと思われる。放送局は視聴者層を幅広く想定し、視聴の際に誤解のないよう画面や番組構成などの演出に配慮しているという。例えば料理番組の最中に台風情報を放送する際、テレビ画面にはメーンの料理番組を出しながら、空きスペースに台風情報を出すことで視聴者が混乱せずに両方の情報を受け取れるといった具合だ。だが「複数の放送番組を同時に表示したり、番組と直接関係のない情報を同時に表示する受信機」では、放送局が提供していない情報までもが「テレビから流れた」と視聴者に勘違いされる恐れがあるという。
電波産業会の「地上デジタルテレビジョン放送運用規定」では、「放送番組及びコンテンツ全体としての一意性確保のため、受信機は以下の事項を守ることが望ましい」と、テレビ受信機に「注文」をつけている。ガイドラインで特に強調されたのは、「放送番組及びコンテンツの提示中に、それと全く関係がないコンテンツ等を意図的に混合、または混在提示しないこと」という点。放送の映像とネットのブラウザ画面が「一体であるかのように視聴者に誤解させるような機能を装備すること」を問題視しているのだ。
「ネットを本気で取り入れようする覚悟が足りない」
ガイドラインには、テレビ受信機の「望ましい」姿として、電源を入れてテレビを起動させた際に「テレビ映像を表示画面全体に表示する」とある。またテレビ映像とそれ以外のコンテンツを同時表示する際は、後者について「テレビ映像とは異なるサービス」と明確にわかる画面構成にする、と説明されている。規定を守らなかったテレビ受信機の処遇をどうするかについては、特に明記されていない。だがスマートビエラが「望ましい」受像機でないことは明らかだろう。「CM拒否」はその「おしおき」だったのだろうか。
上智大学文学部新聞学科の碓井広義教授(メディア論)はJ-CASTニュースの取材に、民放側が掲げる「視聴者の混乱を招く」という理屈に違和感があると話す。ネットがこれほど普及している今日、「同じ画面上に番組とウェブが表示されて、視聴者が困惑するとは思えません」。
碓井教授が教える学生も、テレビ番組だけを食い入るように見ている人は少ない。むしろ番組を横目で見ながらパソコンやスマートフォンに感想を書き込んだりして楽しむスタイルに変わりつつある。ネットに慣れない高齢者への配慮は必要だが、1台でテレビもネットも使えるスマートテレビは時代に沿った製品と言えそうだ。若者世代を「テレビ離れ」から引き戻すツールになるかもしれない。一方、前出のガイドラインが策定されたのは6年前。「デジタルの世界では『大昔』にできた業界ルールを、進化したデジタルメディアに当てはめること自体がおかしい」と批判する。
スマートテレビになれば、例えばドラマや歌番組を見ながらその横にはツイッターで厳しい批評が書き込まれる可能性はある。しかもそれは放送局側がコントロールできない。碓井教授は「テレビ業界はそれを望んでいないのでしょう。ネットを本気で取り入れようとの覚悟が足りないです」と述べた。