「今『指示』が入ったんですけどね。こういうコメントをいただけないかと、スタッフの指示が」
「報道ステーション」(テレビ朝日系)で生放送中、スタッフからコメンテーターへの「指示」の内容を、キャスターの古舘伊知郎氏が自ら暴露するという一幕があり、ネットが騒然となっている。しかもその内容が特定の政党を擁護するような内容だっただけに、「偏向」と局批判を叫ぶ人もいる。
「田崎さんに、みんなの党はゴタゴタしてない、と…」
2013年6月24日放映の同番組では、23日投開票が行われた東京都議選の結果が特集され、ゲストコメンテーターとして時事通信社解説委員の田崎史郎氏が出演していた。特集も後半に差し掛かり、古舘氏が田崎氏に何事か質問しようとしたとき、不意にスタッフからのメモが。いぶかしげな表情で受け取った古舘氏は、それを一読して田崎氏に差し出した。
「今、こういう指示が入ったんですけどね。田崎さんにこういうコメントをいただけないかと、スタッフの指示が」
メモを覗き込んだ田崎氏は、「維新もみんなもゴタゴタ、発言を……?」。意味を解しかねた様子で、いったんは維新とみんなのこれまでの「内紛」について語り始めた。特にみんなに対しては、「渡辺(喜美)さんの発言に対して党内に批判があったりする」と辛口の論評だった。古舘氏はそれを一通り聞いてから、
「で、(スタッフが言ってきたのは)『みんなの党は今はゴタゴタしていない』、というフォローをしてもらいたい、というような感じで」
このやりとりからするに、問題のメモには、田崎氏に対して「みんなの党をフォローする発言をしてくれ」という趣旨の「指示」が書いてあったらしい。田崎氏も、「あー、なるほど」とようやく納得した様子でうなずく。
共産党ばかりほめすぎたのが原因?
テレビでのコメンテーターによる発言は、事前にある程度「打ち合わせ」がされているのが普通だ。しかし、生番組中にそうした内幕が透けて見えることは少ない。今回のようにキャスターが途中で、スタッフの「指示」を、意図的にバラすのはもちろん異例。疑問を感じた視聴者も多かったようで、ネットではたちまち蜂の巣をつついたような大騒ぎに。これこそテレビ局による特定の政党への「偏向」の決定的瞬間、BPOに通報だ――といった調子だ。
確かに放送法では「政治的に公平であること」(第4条)を定めており、特定の政党を意図的に持ち上げたとすれば批判は免れ得ない。もっとも、前後の流れを通して見ると、むしろこのメモは番組全体としての「バランス」を取るためのものだったようだ。
実は田崎さんはその直前に、都議選での共産党の「健闘」を高く評価し、こう解説していた。
「非自民に投票したいという方は必ずいますが、民主は(政権当時の)失望を引きずっていますし、第3極の維新・みんなに対しても、『なんかおかしいな、内輪もめばっかりしていて』と見ている。そうなると、やっぱり共産党に投票するほかなくなってくる」
ほかにも番組中では共産党以外の野党に対し、朝日新聞論説委員の恵村順一郎さんからも「自民の補完勢力になるか、あるいは溶けて消えてしまいます」と辛口の注文が出た。
しかし都議選では惨敗の民主、維新はともかく、みんなの党は7議席と、むしろ躍進を遂げている。だが田崎さんらの口ぶりでは、みんなの党もほかと一緒くたに聞こえる。実際、みんな・松田公太参院議員からも、
「いま移動中に一瞬見た報道ステーション。みんなの党も躍進した都議選だったのに、曲げられた政局の話ばかりをして、あたかも負け組のような扱い」
と不満のツイートが上がっている。こうした反応に、スタッフが番組の途中で気を回しての「フォロー要請」だった可能性はきわめて高い。
古舘氏、わざとバラした?
もっとも、そんなメモを古舘氏はなぜわざわざバラしたのか。直後の発言からは、古舘氏がその内容に不満だった様子がうかがえる。
「まあだから、(スタッフはみんなの内紛について)過去形と見てるのかもしれませんね。この指示が来たということは。ただ、不協和音もあったということで、広義的に見ると、いろいろあったということになるんですね」
いかにも皮肉っぽく笑う古舘氏を、田崎氏は、「やっぱり7議席取ったわけですから、みんなの党もがんばったということですねえ」ととりなしたが、その後はみんなを含む「改憲」勢力の参院選での伸張に疑問を呈すなど、懐疑的な発言は続いた。
なおテレビ朝日はJ-CASTニュースの取材に、「放送中に出演者にメモが渡されることは、この番組に限らず珍しいことではなく、特にコメントすることはありません」としている。