「地震雲」なるものをご存じだろうか。大地震の前兆として発生する「とされる」雲のことで、週刊誌などにこれを元にした予知が掲載されることも少なくない。
しかし、この地震雲なるものどうにも怪しい。予知が当たっていれば説得力もあるが、確認してみるとその肝心の「的中率」も、いささか微妙な線だ。
ツイッターで名古屋発「地震雲」パニック
「【大至急回してください】現在、名古屋の上空に地震雲が発生しています。気象庁によるとこの1週間は警戒が必要とのことです。大至急回して1人でも多くに知らせましょう」
2013年5月20日、ツイッターでこんな投稿が相次ぎ出回った。
この日、名古屋を始めとする東海地方では、空全体に細長い帯状の雲が、並行に連なる光景が見られた。これは地震雲支持者の間では「肋骨状形地震雲」と称され、発生後短期間で地震が発生する「危険な」雲なのだといい、ツイッターなどでは若年層を中心に怯える声が立て続けに上がった。
しかし、6月6日現在、愛知県では20日以降震度1以上の地震は1度も起こっていない。「予知」は、空振りに終わったと言っていいだろう。
そもそも、「地震雲」とは何なのか。似たような概念は古くからあるが、現在言われているのは戦後、鍵田忠三郎氏(1922~94)が自身の経験則をまとめたものがベースとなっている。一口に地震雲といってもその形状はさまざまで、上記のような肋骨状を始め、いわゆる「飛行機雲」様のもの、棒状のもの、入道雲の変形のようなものまで、いくつものバリエーションがある。逆に言うと、ちょっと変わった形の雲なら「地震雲」になってしまうようだ。
地震雲説の支持者は、多くの大地震の予知に成功したと主張している。もっとも「地震が雲の形と連動する」という主張には科学的な裏づけはなく、気象庁や日本地震学会なども、「研究者の間では一般に、雲と地震との関係はないと考えられています」(学会Q&Aページより)とそろって否定的な見解を示している。
ここ1年、地震雲はハズレっぱなし
「地震雲」は本当に当てになるのか。ここ最近で地震雲がネットで騒ぎになった主要な例を挙げてみよう。なお、地震雲が観測されてから実際に地震が起こるまでは、早ければ直後、遅くても1週間以内とされることが多い。
2012年5月12日:東京上空で複数の地震雲が目撃される
2012年5月28日:静岡で「超スーパー地震雲が発生」との写真がツイッターで1000RTされる
2012年6月26日:「地震雲の第一人者」が、7日以内に東京で震度6~7の地震が起こると予想したと夕刊紙が報じる
2012年8月29日:M7~8の地震が4~5日以内に起こる地震雲が東京で、アマチュア研究者によって観測される
2012年10月13日:千葉県を中心に大型の地震雲が見られ、ネットが騒然となる
2013年1月10日:東北~関東で10日以内に地震発生の可能性があると、地震雲研究者が夕刊紙で「警告」する
2013年2月9日:東北から中部地方の広範囲で地震雲が目撃される
2013年3月18日:神奈川県などで「竜巻型」の地震雲が見られツイッターが騒然となる
「ハズレ」がほとんどだ。こうしてみると、あまり騒ぎすぎる必要はなさそうだ。