日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)による、いわゆる従軍慰安婦をめぐる発言に批判が集まるなか、テレビ番組で大阪の視聴者が見せた思わぬ反応がネット上で波紋を広げている。
番組出演者全員が橋下氏の発言について「問題アリ」との見解を示すなか、視聴者投票の結果は約8割が「問題ナシ」。維新の会への逆風ぶりが顕著な世論調査の結果とは対照的な結果に、出演者は「やっぱり地元の意見。日本全体の平均値ではない」などと困惑しきりだった。
「日本全体の平均値ではない」と困惑
番組は、2013年6月1日午後にテレビ大阪(TVO)で放送された情報番組「たかじんNOマネー」。この日は「朝鮮半島まるごと徹底討論スペシャル」と題して、8人のパネラーが意見を交わした。
番組冒頭に「橋下市長『従軍慰安婦発言』問題アリ?問題ナシ?」という問いに対して、パネラー8人全員が「問題アリ」で一致した。8人の中にはアゴラ研究所所長の池田信夫氏や大阪市立大学教授の朴一氏ら慰安婦問題に対する立ち位置が異なる人もいたが、少なくとも「発言に問題がある」という点では一致した。
これと対照的だったのが視聴者による電話の投票だ。テレビ画面上に「0180」で始まる2つの番号が表示され、それぞれの番号が「問題アリ」「問題ナシ」の選択肢にあたる。視聴者はどちらかの番号に電話にかける仕組みだが、ウェブサイトのワンクリック投票と異なり、1回の投票ごとに通話料がかかる。
番組中盤の中間集計の時点で「問題アリ」が1463票に対して「問題ナシ」が4929票。かなり票差が開いていた。出演者は、
「かなり我々、視聴者とぶつかってますね~」(大谷昭宏氏)
「やっぱり地元の意見なんでしょうね。日本全体の平均値ではない」(須田慎一郎氏)
と、かなり驚いていた。
テレビ大阪の電波は基本的に府内にしか届かない
須田氏が指摘するように、この番組は関西のみで放送されたため、ツイッターなどで組織的に投票の呼びかけなどが行われない限り、テレビを見ている関西在住者しか投票できない。さらに、朝日放送(ABC)や毎日放送(MBS)といった他の在阪局が京都や神戸を含む関西一円をサービスエリアにしているのに対し、番組を放送したテレビ大阪の電波が直接届くのは基本的には大阪府のみ。比較的「府民の声」に限定されている可能性もある。
投票の傾向は番組の最後に発表された最終結果でも大きくは変わらず、「問題アリ」2011票に対して「問題ナシ」7713票。実に79.3%が発言に問題がないと受け止めたことになる。番組では、
「慰安婦の強制性の有無のところで橋下さん支持が多かった」
という分析結果が読み上げられた。橋下氏が「国家の意思による拉致・人身売買があったかどうかを検証しなければならない」と主張している点が、一定の支持を得ている可能性もある。
「発言そのよりも『橋下市長を支持する』という意味」?
だが、出演者は結果に違和感を持ったようで、
「見てる人が、男性が多いんじゃないですか?」(朴一氏)
「とらえ方ですよね。橋下さん個人で言うには構わないんじゃないか、とか、歴史認識としてとらえている方とか…。二つにポンと分けちゃたんで、それぞれ理由は違ってたのかも知れないですね。ただ、数字としてこうなったことは確か」(大谷氏)
「発言そのよりも『橋下市長を支持する』という意味で『問題なし』に入れた方も沢山いらっしゃると思います」(眞鍋かをり氏)
と口々に述べていた。
一部では、このような橋下氏への批判ムードについて「手のひら返し」だとして批判する声も出ている。例えば漫画家の小林よしのり氏は5月30日のブログで、かつては安倍晋三首相と橋下氏は慰安婦問題について意見が同じだったことを指摘した上で、
「ところが橋下が『慰安婦制度は必要だった』と発言して、外国から一斉に非難され、特にアメリカが怒り狂ったら、安倍晋三はなんと見事な『手のひら返し』か!橋下徹の惨状を見て、安倍晋三、稲田朋美ら自民党の政治家どもは、全員、知らぬ顔の半兵衛を決め込んだ!英霊の名誉より、参院選!」
と変節ぶりを嘆いている。