2013年夏商戦向けに、スマートフォン(スマホ)の新製品が続々と発表されている。国内外主要メーカーが新機能や高性能を競うなか、いわゆる「ガラケー」と呼ばれる従来型携帯電話の仕様を取り入れたスマホが登場した。
時代に逆行するとも言えそうなつくりだが、実は今も多く存在する「ガラケーユーザー」をスマホに乗り換えさせる仕掛けのようだ。
「1、2年以内に買いたい端末」に約1割が「ガラケー」
NTTドコモが2013年5月15日に発表した新モデルのうち、パナソニックモバイルの「エルーガP」と、NECカシオの「メディアスX」は、「iモードケータイのように使える」がセールスポイントだ。
一般的にスマホの画面には、各種アプリのアイコンが並ぶ。だがこの2機種の場合、ホーム画面には一律に「電話」「メール」「電話帳」といった基本操作用のタッチボタンが配置されているのだ。ドコモの従来型携帯で「メニュー」ボタンを押すと出てくる画面に似ている。頻繁に使う機能がひと目で分かり、初心者にとってはありがたい。
ドコモ広報に取材すると、これまでスマホに乗り換えた顧客から「メニューボタンがない」「通話の発着信履歴はどこを見ればよいのか」との問い合わせが寄せられたと明かす。「ガラケーっぽい」つくりは、スマホに興味はあるが操作に不安のある人向けだ。指で表面を右になぞれば、通常のスマホと同様アプリが並ぶ画面に、左になぞると従来型携帯のように通話の発着信履歴が現れる。
従来型携帯のニーズは、今も一定の割合で残っている。角川アスキー総合研究所がドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの3社の利用者対象に実施した「1、2年以内に買いたい端末」の最新調査結果によると、各社とも9%超が従来型携帯を挙げたという。各社がスマホ戦略を進めるなかで、1割近くが「ガラケー」と回答したのは興味深い。同研究所主席研究員の遠藤諭氏に聞くと、「今では販売店に行っても新たな従来型携帯は購入できない。その一方で『欲しい』という層は確実にいることを示しています」と話す。
2012年以降、キャリア各社は取り扱い機種を続々とスマホに変え、多様な新商品ラインアップをそろえつつキャンペーンを張って、スマホの新規契約や従来品からの買い替えを促してきた。逆に従来型携帯の新規開発、生産は一気に減らした。モバイル環境の急変に戸惑う「ガラケーユーザー」のなかには、スマホ乗り換えになかなか踏み切れない人が少なくない。角川アスキーの調査結果は、急激なスマホ化に対する「揺り戻し」があったためではないかと、遠藤氏は推測する。
多機能化が進んで乗り換えの敷居が高くなった
ドコモだけでなくKDDIも5月20日の新商品発表会で、「スマホ初心者にも分かりやすい」とうたった京セラ製の端末「アルバーノ」を披露した。従来型携帯の操作に慣れている人がスマホでも迷わないよう配慮している。
こうした「ガラケーみたいな機種」が、スマホへ乗り換えるステップとなる可能性を指摘するのは、青森公立大学経営経済学部准教授の木暮祐一氏。実はソフトバンクモバイルも2011年6月、折りたたみ式ながら米グーグルの基本ソフト「アンドロイド」を搭載した、携帯とスマホを合体させたような端末を発売している。通信キャリアとしては収益性の高いスマホに乗り換えてほしい。だが、例えばドコモの場合、契約者数6000万超のうち約半数の3000万ほどがいまだに非スマホ利用者だ。今回発表したような従来型とスマホの「中間機」が、スマホ移行を促進するカギになるかもしれない。
木暮氏は、短期間でスマホそのものの多機能化が進んだことも、ユーザーが乗り換えにちゅうちょする原因ではないかと指摘する。特にアンドロイド機の場合、初期モデルはシンプルなつくりだったが、メーカー各社が独自の開発を施せるため次第に多様な端末が生み出された。その結果、いろいろな機能が詰め込まれた一方、機種ごとに操作性が違うなど一貫性を欠き、初心者にとってハードルが高くなってしまった、という見方だ。「かつてのノートパソコンのように、本来は小型軽量化に向かうはずが途中からあれこれと機能が増え、一時は持ち歩くには不便な大きさの製品が増えたのに似ています」。
発売元のパナソニックモバイルとNECカシオは、国内スマホシェアで遅れをとっている。調査会社IDCジャパンやMM総研の2012年国内スマホ出荷台数データを見ると、両社とも米アップルや富士通、ソニーなどの後塵を拝し、割合は少ない。少々異色ともいえる「ガラケー型スマホ」が、両社にとってのカンフル剤となるだろうか。