企業が役員や管理職に、女性を積極的に登用しようという動きが広がっている。
流通大手のイオンは、グループ全体の管理職に占める女性の割合を、現在の7%から2020年までに50%へ引き上げる方針を明らかにした。女性が結婚や出産をしても働き続けやすいように勤務条件などを見直すという。政府が経済政策「アベノミクス」で、女性の積極活用を掲げたことに対応したとされる。
イオン、女性役員の比率も30%以上に
イオンの女性正社員は約2万8000人で、グループ全体の38%を占める。しかし、グループ本社部門の約4200人の管理職のうち、女性は約600人にとどまる。
岡田元也社長は2013年5月16日に開いた株主総会で、2020年をめどに比率を50%まで高める方針を示した。女性役員の比率も30%以上に高める。
イオンは、新卒の新入社員は男女の比率がほぼ同じだが、女性は結婚や出産を機に退職する人も多い。岡田社長は、「採用や人材育成の面で、非効率で生産性を低下させる大きな要因になる。転勤や勤務パターンについて、あまりにも配慮がなさ過ぎた」と話し、能力のある女性が働き続け、多くを管理職に登用できるようにすることが、グループの総合力を高めることになるとみている。
同社は女性の積極登用を推進するベネッセホールディングスの内永ゆか子副社長を社外取締役に迎えることを決めていて、同氏からのアドバイスにも期待する。
具体的な取り組みについては、1年以内に設置する「ダイバーシティ(多様性)推進室」で練っていくが、「女性が働き続けることができる職場環境を整えていき、その中から(管理職に)ふさわしい人材を育て、引き上げていきたい」と考えている。
百貨店大手の高島屋も女性管理職の割合を25%まで高めているが、イオンのように半数を女性管理職にするのは異例だ。
東洋経済新報社の「CSR企業総覧 2013年版」によると、2011年度の女性部長比率を開示している829社のうち、「女性部長比率」(会社の全部長に占める女性部長の割合)の全社平均は、わずか1.74%。最も高い業種の保険業でも6.12%(11社が対象)で、サービス業が5.74%(54社)、小売業4.96%(57社)と、いずれも女性が多い職場での登用が目立つ。
「5人に1人」にあたる20%を超えたのは、医療事務・介護事業のニチイ学館の56.5%(人数35人)やベネッセコーポレーションの25.0%(19人)など9社しかない。
JAL、東電、伊藤忠…… 女性役員も続々
女性役員の登用も増えている。日本航空は客室乗務員出身の大川順子氏が2013年4月1日付で専務執行役員に就任。6月の株主総会後の取締役会で正式に取締役に就く。
東京電力も、福島第1原子力発電所事故の損害賠償を担当する佐藤梨江子グループマネージャー(課長級)を4月1日付で執行役員に登用した。佐藤氏は48歳。内部昇格者としては過去最年少の役員だ。伊藤忠商事でも、46歳という若い、池みつる氏が執行役員法務部長に就任した。
三菱UFJフィナンシャル・グループは、早稲田大大学院ファイナンス研究科教授の川本裕子氏を取締役に起用するし、パナソニックは元経済財政担当相で安倍政権の規制改革会議で議長代理を務める大田弘子・政策研究大学院教授が6月の株主総会で社外取締役に就くことが決まっている。
どれも「初めての女性役員」だ。
こうした動きを、国も後押ししている。きっかけは、民主党政権当時の2012年6月から取り組んでいる「女性の活躍による経済活性化~働くなでしこ大作戦~」。女性管理職を2015年度に10%程度、2020年度までに30%にまで引き上げていくことを目標にしている。
東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部の渥美由喜部長は、「女性の役員や管理職を増やすことについて、これを数値目標として公表することは社内的に反対の声もあり、企業は消極的でした。それが最近は対外的に公表したほうが消費者や株主にアピールでき、CSR(企業の社会的責任)の視点からメリットが大きいと判断するようになったといえます」と話している。