「試験自体が学びの体験になる」
なぜこんな奇妙なテストをおこなったのか。実は、講義でもあつかった「ゲーム理論」の実験のためだった。ゲーム理論とは、利害が必ずしも一致しない状況において、複数の主体の行動の最適戦略を数学的に記述する理論。行動生態学でも用いられる。
教授は「学生に行動生態学者としての考え方を体感してもらいたい」、学生は「試験でいい成績をとりたい」――試験におけるこの二者の「利害」を同時に満足させることができるかを観察するために、あえてこの奇抜な試験をおこなったのだそうだ。
最初に「不正行為OK」と聞いた学生は当然最初はショックを受けた。ジョークを言っているに決まっているなどと考えていたが、次第に落ち着いて、ディスカッションをはじめた。その中で「人と協力することで効果をあげられるのか?大きなグループは、特定のタスクを与えられた小さなグループより良い結果を残すか?何にも準備していない生徒が、デキる生徒の答案を丸パクりしたら?テストが食うか食われるかのハンガーゲームになるのか?」といったことを考え始めた。
教授によると学生はこれで「生のゲーム理論」を体感できたのだという。
「結局、学生らはアリやハチのような社会的昆虫の何億年も続く知恵を学んだのです。つまり、ある種の競争に勝つためには、競争するよりは協力したほうがいい。さまざまな意見を通じて生まれた連帯は、どんなに優れた一人きりの競合相手よりも強い」
さらに、教授は試験についてこんな考え方を書いていた。
「最高の試験というものは、何を生徒が知っているかを探るものではなく、新たな考え方を引き出すものでしょう。覚えていることをオウム返しすることよりもずっとすごいことです。試験自体が学びの体験になる―それがものごとをより深く理解することにつながるのです」