東京都の都営地下鉄や路線バスの24時間運行が、にわかに現実味を帯びてきた。猪瀬直樹・東京都知事が、地下鉄やバスを24時間運行している米ニューヨークを視察して、「東京も公共交通を24時間化する」と表明したからだ。
政府も、産業競争力会議で検討を進めている「アベノミクス戦略特区」として「後押し」する見通しで、東京が本格的に「眠らない街」になる。
バス運行の24時間化、大いに「脈あり」
猪瀬知事は、手始めに2013年12月中に、渋谷‐六本木間で都営バスを運行する考え。東京都は現在、23時以降に深夜バス(運賃は、通常の2倍の400円)を6系統で走らせている。それらの最終バスは午前0時台に運行しているが、渋谷‐六本木間もその1本(終点は新橋)。利用状況は、「1回の運行で10数人~20数人程度」(交通局)という。
これを片道1時間に1本程度を想定して利用状況を調査。あわせて、他の路線についても検討していく。
じつは都営バスの24時間運行は、13年ほど前の石原都政時代にも持ち上がった。当時は深夜に都心からの帰宅便がなかったことで検討したが、実現しなかった。「今回は都心部の魅力アップが狙いですから、視点が違います」と、バス運行の24時間化に向けて大いに「脈あり」とみている。
ただ、都営地下鉄の24時間運行は簡単ではない。猪瀬知事も「線路のメンテナンスをする時間が必要で、現状では難しい」と話していて、現在の終電時間を遅らせたり始発時間を早めたりする、運行時間の延長での対応を検討するという。
一方、新宿や渋谷、赤坂、六本木にバブル経済で華やかな頃の、ネオンに煌々と照らされていた街が戻ってくる――。都営バスの24時間運行に、早くもそんな期待を寄せる声があがっている。
現在でも居酒屋などの深夜まで開いている店が多く並ぶ、渋谷センター街や新宿・歌舞伎町などは「大歓迎」だ。交通機関の24時間運行が実現すれば、お客が店に滞留する時間が長くなるし、2軒目、3軒目と流れてくるお客が見込める。
コンサートや観劇、スポーツ観戦を楽しんでから、現在はまっすぐ帰宅しなければならなかった人が、ゆっくり食事をしてから帰れるようにもなる。
バス路線の拡大、あるいは地下鉄が24時間運行して、国際化した羽田空港に合流すれば、海外からのビジネス客や観光客の需要も取り込める。
タクシー業界「地下鉄が動くとなると影響は大きい」
エンタテイメントやアミューズメントパーク、外食業などが、都営バスや地下鉄の24時間運行に期待を寄せるなか、危機感を抱くビジネスもある。タクシー業界は、その一つだ。
タクシーにとって、終電後は1日で最も集客が見込める時間帯。その終電がなくなるのだから、反発は無理もない。
約400の事業者が加盟する東京ハイヤー・タクシー協会の藤崎幸郎専務理事は「現状でもタクシーの夜間需要は以前よりも半減しています。現状、夜間の就業人口が増えているわけでもないのに、(24時間運行する)意味があるのかなとは思います」と、懐疑的だ。ただ、「タクシー業界としては、渋谷‐六本木間だけであれば、影響も限定的ですが、他のバス路線や地下鉄が動くとなると影響は大きいでしょう」とも話す。
さらに、終電を逃した人が帰宅できずに始発までの時間をつぶすのに利用されがちな、マンガ喫茶やカラオケ、24時間営業のファミリーレストランも「利用が減るのではないか」との見方があるほか、ビジネスホテルなども宿泊客の減少を心配する。