金相場が暴落した。金ETF(金価格に連動する上場投資信託)などに投資していたヘッジファンドが資金を引き揚げて、連日のように最高値を更新する株式市場に投資を振り向けているため、とされる。
金価格の国際的な指標であるニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物相場は2013年4月12日、取引の多い6月物が前日比63.5ドル安の1トロイオンス1501.4ドルで取引を終えている。「まだ下がる」という専門家の見方もある。
暴落は「複合的な要因で決まる」
4月12日の金相場の大幅な下落は、米ニューヨークだけでなく、英ロンドンでも起こった。ドル建ての金価格が1トロイオンス1560ドル台から、一時は1476ドルまで暴落。1年11か月ぶりの安値をつけた。
金融・貴金属アナリストの亀井幸一郎氏は、「金相場は売り手と買い手の投資心理に左右されやすく、複合的な要因で決まることがほとんどです」と話す。
今回の暴落のきっかけは、米国の金融政策への「見方」にある。最新の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録で、2013年末までに量的緩和が縮小されるとの意見が顕著になってきたことが確認されたためだ。
金は、量的緩和によるインフレに対してのリスクヘッジ手段として買われてきた側面がある。量的緩和が縮小されれば、インフレヘッジとして金を買うニーズは弱まる。
その一方で、米国景気の回復観測とそれに伴う株式相場の先高観は根強く、投資対象として相対的に魅力が低下した金に売りが出たというわけだ。
こうした情報に加えて、欧州の債務危機問題にからみ、キプロスが財政赤字の補てんのために金を売却すると伝わったことが投資家心理を冷やした。
基本的に、中央銀行が赤字補てんのために金を売却することはない。金売却がキプロスだけにとどまるのか、他の債務国にも及ぶのか、と投資家が疑心暗鬼になったとみられる。
さらには「テクニカル要因が背中を押しました」と、亀井氏はいう。「金相場は1520ドルが一つの節目になります。その水準を抜ければ『下げ』に勢いがつくと見て、ヘッジファンドなどによる売りが広がりました」と話している。
なかでも金ETFの残高の急減は、2003年に金ETFが登場して以来初めてこと。こうした複数の要因が重なって、「下げ相場」が投資家心理を冷やし、さらなる「売り」を招くという悪循環になっているようだ。
リバウンドを繰り返し、「中長期的には1240ドル」
亀井氏は、「金相場が出直しムードになったことは事実。ただ、多少買い戻される場面はあるでしょう。相場が下げる局面では『買い手』であるインドや中国の実需買いも増えますから、今は売り手もインドや中国のようすを見極めたいと考えているところ。しばらくは下値水準を探る展開になるでしょう」と話す。
一方、三菱UFJモルガン・スタンレー証券エクイティリサーチ部の宮田直彦チーフ・テクニカルアナリストは、「金価格の下落・ドル上昇の流れが2016年ごろまで続く」と予測する。
当面、金価格は「1448ドルを目指す展開となる」とみているが、「それで金価格が最終的な安値を付けることにはならないだろう。途中でリバウンドを繰り返し、中長期的には1240ドルを目指すものとみている」という。