安倍晋三首相が2013年3月12日の衆院予算委員会で、第二次世界大戦の戦犯を裁いた極東国際軍事裁判(東京裁判)について、「勝者の判断によって断罪された」との見解を披露した。
その上で「歴史に対する評価等については、専門家や歴史家に任せるべき」とも述べて深入りは避けた形だが、安倍首相は第一次安倍内閣時代に、いわゆるA級戦犯について「国内法的には戦争犯罪人ではない」と明言して批判されたことがある。
「東京裁判」という言葉は質問には出てこなかった
安倍首相の発言は、大熊利昭衆院議員(みんなの党)への答弁の中で出た。大熊氏は、幣原喜重郎内閣が第二次大戦の敗戦理由を分析するために設置した「(大東亜)戦争調査会」を例に引きながら、
「次の時代に進むのであれば、前の時代をきっちりと検証し。総括することが大事」
と、東京電力福島第1原発の事故に対して国会が事故調査委員会を設置したのと同様に、と太平洋戦争についても検証を進めるように求めた。
これに対して、安倍首相は調査会が廃止になった経緯について簡単に触れた上で、質問にはなかった「東京裁判」という言葉を自ら口にした。
「先の大戦においての総括というのは、日本人自身の手によることではなくて、東京裁判という、言わば連合国側が勝者の判断によって、その断罪がなされたということなんだろうと思う」
その上で、戦争調査会が1年程度で廃止された背景についても
「国際情勢の中で開戦に至る過程ということにおいて、言わば、おそらく、連合国に対して、ある種都合の悪い考え方についても議論がなされるのではないかということにおいて、そうした議論を封殺されたということではなかったのか」
と指摘した。
国が戦争の検証すると「外交問題に発展する可能性もある」
ただし、
「こうした歴史に対する評価等については、専門家や歴史家に任せるべき問題ではないか」
として、今後政府として特段の対応を行うことには否定的な見解を示した。大熊氏は、
「国としての総括が必要なのでは」
と食い下がったが、安倍首相は、
「例えば戦争遂行の上で戦術・戦略はどうだったかという検証は、国において、もしかしたら可能かもしれない。しかし、それに至る世界史的な動きの中で、『どうして開戦に至ったか』という分析においては、関係する国々も多く、政府そのものがそうした検証・研究を行ったり意見を述べていくことは外交問題に発展する可能性もある」
と懸念を示し、仮に国が検証を行ったとしても、外交的配慮が行われた結果、
「本来のファクトに基づく観点をゆがめていく危険性もあるのではないか」
と述べた。
06年には、A級戦犯は「国内法的にいわゆる戦争犯罪人ではない」
安倍首相は06年10月の衆院本会議で東京裁判への認識を問われ、
「サンフランシスコ平和条約第11条により極東国際軍事裁判所の裁判を受諾しており、国と国との関係において、この裁判について異議を述べる立場にはない」
と、裁判の結果を受け入れる姿勢を鮮明にしている。現時点でも、この見解を踏襲しているとみられる。ただし、同時期の予算委員会では、いわゆるA級戦犯について、
「国内法的にいわゆる戦争犯罪人ではない。遺族援護法等の給付の対象になっているし、いわゆるA級戦犯と言われた重光葵氏はその後勲一等を授与されている。犯罪人であればそうしたことは起こり得ない」
と述べ、近隣諸国から批判を受けた経緯もある。
今回の発言について、韓国メディアは現時点では事実関係を淡々と報じているが、左派のハンギョレ新聞は、安倍首相について
「『国内法上では戦争犯罪者ではない』と主張して論議を起こしたことがある」
と指摘した。米国については、3月12日(米国東部時間)時点では、ホワイトハウスや国務省も、特段の反応は示していない。
東京裁判をめぐっては、パール判事が「判決ありきの茶番劇」と裁判そのものを批判した上で被告人全員の無罪を主張している。検察側の証拠が弁護側の証拠よりも有利に取り扱われるなど、裁判の正当性に疑問を投げかける声も少なくない。