慰安婦の強制連行は考えにくいと、国会で野党議員が主張したことは、2ちゃんねるなどで大きな反響を呼んだ。ところが、その中継のユーチューブ投稿動画がNHKの著作権侵害申し立てで削除され、なぜなのかと物議を醸している。
削除された動画は、元文科相で現在は日本維新の会所属の中山成彬議員が2013年3月8日の衆院予算委員会で質問に立った場面だ。
慰安婦連行に否定的な国会質問で波紋
中山氏は、1時間の持ち時間内で、新聞報道を元に従軍慰安婦問題にも切り込んだ。旧日本軍の関与を示す資料が見つかったと大きく報じた日本の新聞記事をパネル上に示し、それはよく読むと、悪徳業者が募集に関与していると注意を呼びかける通達だったと主張した。また、朝鮮の議員の8割以上が現地の人であるとの記事も示して、「官憲の強制連行は考えられないのでは」と唱えたのだ。
この主張は、ネット右翼などの支持を集め、2ちゃんでは、スレッドが次々に立つ祭り状態になっている。
ユーチューブには、NHKの中継を録画した動画が投稿され、アクセスを集めた。ところが、その動画がNHKによる著作権侵害の申し立てにより削除され、2ちゃんなどでは、国会中継の動画でもそうなるのかと波紋が広がった。
確かに、衆議院公式ホームページの中継サイトでも録画は見られるが、「こんな公共放送で大丈夫か?」「知る権利より著作権が優先されるんだ」との不満が相次いでいる。内容が慰安婦問題だっただけに、どこかの団体から要請があったのではないかといった憶測まで出ている状態だ。
2ちゃんスレでは、著作権法上も国会中継動画の削除はおかしいのではないかという指摘があった。第10条の2では、事実の伝達に過ぎない雑報や時事報道は著作物に該当しないとあり、また、第40条では、政治演説はいずれの方法でも利用できるとされているからだ。
こうした点について、立教大学の上野達弘教授(著作権法)は次のように解説する。
NHK「これまでも削除を要請しています」
「10条にある『雑報』とは、10~20文字ほどの短い死亡記事などをイメージしています。国会中継は長い時間にわたって撮影していますから、それを適用するのは難しいでしょう。また、40条では、確かに、政治演説は広く知られた方がよいということから、自由に利用できることになっています。しかし、それは演説している人の著作権が制約されるということであって、NHKは演説している本人ではなく別の人格になります。とすると、NHKは著作権を主張できることにもなるわけです」
つまり、国会中継を無断で投稿すれば、著作権侵害になる恐れがあるということだ。
ただ、上野達弘教授は、法的には難しいものの、ドラマや音楽番組とは違い、国会中継は広く国民に知られた方がいいという主張ももっともだとする。
「ユーチューブに投稿した人はそれで大きな利益を得るわけではないですし、NHKにしても収入が減ることにはなりません。今回は、公共性が高い国会中継ですので、自由に使わせてもいいのではというのも分かります。投稿でかえって音楽が売れたこともあるわけですし、ネットに上がったコンテンツをどうするかは、将来の課題になるでしょうね」
NHKの広報局では、取材に対し、「放送した映像が無断でアップされているのを見つけたり、指摘を受けたりした場合、国会中継に限らず削除を要請しています」と説明した。国会中継については、「これまでも削除を要請しており、実際に削除されています」とした。
2ちゃんでは、過去のケースとして、自民党の西田昌司議員が2011年11月15日の参院予算委員会で質問した中継動画が、NHKの著作権侵害申し立てで削除されたことが挙げられている。しかし、国会中継が削除されるのはまれではないか、と依然として疑念がくすぶっているようだ。