東京大学を「滑り止め」にする生徒が増えている。
ハーバード大学含む有名大学への志願者が増加していて、こうした生徒たちは東大を「滑り止め」として受験するのだという。
海外大学進学の裾野もここ1~2年で急増していて、かつて日本が指摘されていた「内向き」が「外向き」に変わりつつあるようだ。
「東京大学を確実に狙える」レベルからハーバードへ
ハーバード大、イェール大などアメリカの有名大学への受験指導をおこなうベネッセの「ルートH」では、2008年の開始から3年間で計10人の卒業生を送り出した。今期はその合計と同数の10人が在籍している。開始当初は1日1~2件だった問い合わせもかなり増え、かなり忙しい状態だという。
また、政治家の田村耕太郎さんは2013年1月21日のブログに、ハーバード大学ライシャワー日本研究センターのスーザーン・ファー所長の話として、ハーバード大学学部への日本からの願書が2年前から急増中で、11年には48通、12年には70通を超えたと紹介した。イェール大学やデューク大学についても、田村さんが関係者に問い合わせたところ、具体的な数字は非公開だが、ここ数年大きく増えているという。
ルートHの生徒はみな全日制普通科の高校生で、担当者によると「東京大学を確実に狙える」レベル。現在ハーバード大学に在籍している日本人9人のうち4人が在籍していたが、その合格実績を詳しく見ると「その他の合格先」欄にイェール大学やコロンビア大学とともに、確かに東京大学理科1類や理科2類が並んでいる。
ただ、海外大受験の対策は日本での大学受験とは異なり、学業だけではなく人格など内面も重視されるため、課外活動にも忙しい。それらをこなすだけあって、生徒らは基本的な能力がかなり高いそうだ。ストレス耐性が強く、体力的にもタフで、女子でもほとんど寝ずに活動しているという。
アメリカの大学の受験は秋口から年始にかけておこなわれることが多い。たとえばハーバード大の場合、13年9月入学には12年11月1日と13年1月1日の2回の出願締め切りが設定されていた。
こうしたかなり優秀な子どもたちが、東京大学を「滑り止め」として併願し、海外有名大学へ挑戦する流れが加速しているというわけだ。
「日本を舞台にするか世界を舞台にするかの選択なんです」
増加の背景として、ルートHの担当者はリーマンショック以降グローバル化が進んだことと、東大の秋入学などの議論もあって、海外留学が社会の一つの流れになっていることを挙げた。
東日本大震災以降その流れが顕著になり、就職を含め社会が不確実な中で日本に留まるリスクが海外へ行くリスクと比較できるほどに大きくなった。そのため、海外大学への進学が選択肢に上がりやすくなったのだという。また、SNSの拡大により、現地に留学している先輩の声を直接ききやすくなったことも要因として考えられるそうだ。
アメリカの有名大学への進学は、日本かアメリカかの選択にとどまらず、「人生の舞台を日本にするか世界にするかの選択なんです」と力説する。
また、全体的な傾向としても海外大への留学志願者数が増えていて、とくにここ1~2年の伸びは目を見張るものがある。
ベネッセでは「ルートH」とは別に、日本の高校から海外の大学を受験することを支援する「海外大学留学支援センター」を運営している。12年4月の時点で、同センターの支援で海外大に進学した人の数は135人。前年の25人から大きな伸びを見せた。今年は200人ぐらいになるのではとも言われているそうだ。
数年前はハーバード志願者が1桁になるなど「内向き」と指摘されていた日本だったが、裾野の広がりも含め「内向きから外向きへ、現場の感覚ではもう変わってきていると思いますね」と話していた。