インターネット通販大手の楽天は2010年7月、社内での英語公用語化を打ち出した。あれから2年余りたった現在、会議のプレゼンテーションは英語で行われるようになり、英語能力試験「TOEIC」の社員のスコアも上昇した。
三木谷浩史社長自らが音頭を取って進める「全社プロジェクト」で、まずまずの成果が出たという。そして早くも「第2弾」の社内公用語化計画がささやかれている。今度はコンピューター言語が対象というが、本当なのか。
TOEICの平均点「700点をゆうに超えている」
日本経済新聞朝刊で、三木谷社長を追った連載が続いている。2013年1月9日の回は、「英語公用語化」の背景が描かれた。2010年に「宣言」してから役員会議の資料の英語化から始め、会議でのプレゼンも英語に統一。役員が言葉に詰まって日本語に頼ろうとするのも許さなかったという。英語が堪能だった三木谷社長は、社員を叱咤する一方で自分は中国語の学習に取り組んだ。
1月10日放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)では、社内で英語化が浸透してきた様子を映した。朝8時に行われる朝会では、三木谷社長自ら英語でスピーチ。食堂のメニューや掲示物は英語表記だ。新卒社員の3割は外国籍で、社内の国際化も進んでいるという。
楽天の企業サイトを見ると、採用情報ページで人事統括者が社員のTOEICについて言及していた。英語化の方針を発表した2010年7月当時の社員の平均点は529点だったが、2年間の「準備期間」で現在は「700点をゆうに超えている」という。TOEICの運営機関が公式に発表している「通常会話は完全に理解でき、応答も早い。業務上も大きな支障はない」とされる730点までもう一歩だ。
日経の記事には続きがある。楽天の創業当時、コンピューターでプログラムが書けなかった三木谷社長がある日、簡単ながらもプログラムを覚えて同僚に見せたエピソードが披露された。多忙な時期に独学でマスターしたというのだ。そして最後に、三木谷社長の思いとしてこんなひと言が紹介されている。
「次はJava(コンピューター言語の一つ)の公用語化だ」
世界に通用するネット企業として、コミュニケーションのための英語力だけでなく、コンピューター言語にも通じていてしかるべきというわけか。これ以上具体的なことは書かれていないが、もしも楽天が、英語化のように「社内Java化」を推進するとなれば、社員は新たなチャレンジを求められることになる。
実務経験積まないと仕事で使えるレベルにならない
英語の場合、ビジネスで使えるレベルまで磨くのは大変だが、誰もが学校で勉強した経験があり、全く未知の世界に飛び込むわけではないだろう。だがコンピューター言語となると、一般的に中学や高校の授業で習うような性質のものではない。仮に「社内公用語化」となれば、何の知識も持たず「ゼロからスタート」という社員は少なくないはずだ。
ある男性プログラマーに聞くと、「Javaは、PHPなど他のコンピューター言語と比べて覚えることが多く、習得は難しい」と話す。利用度が高くて「できることが幅広い」メリットがあり、金融機関のシステムなどで使われる。半面、初心者が学ぶ上では「『このルールにしたがって書かねばならない』といった決まりが多くて、複雑」というのだ。
独学で勉強したり、検定試験を受けたりして基礎知識を身につけたとしても、実務で数年ほど経験を積まなければ「仕事で使えるレベル」にはならない。だが、「生半可な知識で業務に手を出されては、かえってトラブルのもとになりかねません」と男性プログラマーは指摘する。
三木谷社長は2012年6月29日、外国人特派員協会での講演の中で、英語公用語化の方針を打ち出した2010年当時を振り返った。周囲には首をかしげる人がいたが、日本語が全く話せなかった外国人社員が短期間で会話力をつける姿を見て「なぜ日本人ができないのか」と英語化を推し進めたそうだ。それから2年間で成果が出てきた手ごたえから、次のステップを思い立ったのだろうか。
楽天広報部はJ-CASTニュースの取材に応じた。三木谷社長は「IT企業として、エンジニアに限らず社員全般がJavaのようなコンピューター言語の理解を深め、基礎知識を身につけるのはいいこと」と推奨したのは間違いないようだ。だが、「英語公用語化では一定レベルのスキルを身につける目標を立てていますが、Javaについては現段階で『資格を取る』『業務で使えるようにする』といった公用語化の具体的プランが進んでいるわけではありません」とのことだった。