東京電力・福島第一原子力発電所の周辺で「手抜き除染」が横行している問題で、環境省は2013年1月7日、除染作業の元請けになっているゼネコンを聴取したところ、洗浄に使った水が回収されていない事例を2件確認した。
放射性物質に汚染された土や枝葉、洗浄に使った水などを不法投棄することは12年1月に施行した放射性物質汚染対処特別措置法で禁じており、元請け先などはこれに違反している可能性がある。
膨大な作業量でも、除染器具不足
環境省は12年夏、福島県内の11市町村を除染特別地域に指定し、建物や道路、農地などから20メートル内の除染を本格的に開始した。現在、田村市が鹿島(受注金額33億円)などに、楢葉町が前田建設工業や大日本土木(188億円)、飯舘村が大成建設(77億円)、川内村が大林組(43億円)などに発注し、元請けのゼネコンは共同企業体(JV)を組織して除染作業にあたっている。
環境省によると、除染の作業ルールは放射性物質汚染対処特別措置法に基づくガイドラインに則って決めている。
はぎ取った土や、落ち葉や枝はすべて袋に入れて回収し、放射性物質の飛散防止や地下水への漏えい防止策を講じたうえで仮置き場に保管。また、住宅の屋根や壁はブラシでこすり、高圧洗浄機を使用した場合を含め、使用した水も回収するよう求めている。
除染作業で手抜きがあったことについて、環境省は「現在、事実確認を行っているところですが、定めている作業基準が満たされていない場合には規則に則って適切に措置してもらうよう指導します」と話している。
なぜ、このような手抜き作業が起こったのか――。その背景を、原発や除染の作業員を支援する「被ばく労働を考えるネットワーク」の中村光男氏は「責任の所在が不明確」な点を問題視している。
除染に限らず、原発の作業現場には5次、6次と多くの下請け業者が入っている。「除染作業では、環境省はゼネコンに丸投げですし、ゼネコンも下請けに丸投げ。監督者も作業員も下請けでは、いったい誰が責任者なのかわかりません」と指摘する。
放射線物質を浴びるような、健康被害の心配がある劣悪な現場のうえに、作業は手間がかかり、かつ量は膨大。それなのに除染に使う道具や器具は不足し、作業のやり方や器具の使い方などをきちんと指導する人も十分にいないような状況という。
「たとえば、草刈り機は1日8時間使いっぱなしで、刃はすぐダメになってしまいます。なのに、作業員が替え刃を要求しても支給してくれない。仕方なく自分たちで替え刃を買いに行くようなほどです」
作業員、危険手当なく働く意欲萎える?
さらに、中村光男氏は「本来、作業員は日当6000円と特殊勤務手当(危険手当)1万円が支給されるのですが、実際には危険手当は支給されていません」と、続ける。
除染の作業現場は、12年夏に警戒区域が解除された後も避難指示解除準備区域の指定が残るようなエリアで、住民もまばら。住民から「草がきちんと刈り取られていない」「洗浄に使った水が漏れている」といった苦情が環境省に寄せられる一方で、「(除染が終わって)本当に(避難している)住民が戻ってくるのか」といった声が漏れることもある。
こうした精神的、物理的な要因が作業員の働く意欲を萎えさせ、「手抜き」につながった可能性はある。
環境省の除染適正化推進本部は2013年1月7日の会議で、当面、除染現場の工区ごとに環境省の職員を配置すること、委託監督補助員の増強、不正行為に関する通報処理と対応の組織化などの監視強化策を決めた。