大手銀行が2012年12月から、住宅ローン金利を一斉に引き下げる。最初の10年間が固定の最優遇金利はメガバンクや、りそな銀行が年1.3%、三井住友信託銀行が年1.15%と、過去最低の水準だ。
消費税率が現在の5%から2014年4月に8%、15年10月には10%に、段階的に引き上げられる予定で、その「駆け込み需要」を狙ってセールスをかけるところも出てきた。
銀行にとっては不動産関連だけが有望分野
メガバンクなどの12月の住宅ローン金利は、足もとの長期金利が年0.710%と約9年ぶりの水準まで低下していることにあわせた動きで、0.05ポイント引き下げる。
住宅ローン金利はほぼ下限まで下がっていて、金利競争では他行と差別化しづらい。そのため、繰り上げ返済をやりやすくするサービスや、収入が減ったり、健康を損ねたりしたときにも返済しやすいような商品を取り揃えた。
狙いは、家計の支出をできるだけ抑えようと、早めに住宅購入に走る「駆け込み需要」にある。
2014年4月からの消費増税は、それによる影響を考慮して1997年のときと同様に、増税となる日の6か月前の前日までに締結した請負契約の工事については、物件の引き渡し日が増税実施以降でも改正前の税率が適用される、「経過措置」を設けている。
つまり、2013年9月30日までに契約を締結すれば、引き渡し日が14年4月1日以降でも消費税率は5%でよいのだ。
ただし、建売り住宅や分譲マンションは、「引き渡し日」で税率が決まるので、経過措置は適用されない。
消費税の引き上げは2年先のこととはいえ、「大きな買い物」だけに消費者もじっくり考えて物件を選ぶ。銀行が今から準備しても遅いことはなく、「先手先手で顧客を囲い込む」狙いがある。
また、みずほ証券チーフ不動産アナリストの石澤卓志氏は、「最近の不動産市場はマンション価格などで上昇気配があります。景気悪化で資金需要が見込めない中にあって、銀行にとっては個人を含め不動産関連だけが有望分野という事情もあります」と、説明する。
石澤氏は、「駆け込み需要のピークは14年1月以降になるでしょう」と予測する。
住宅販売の現場は消費増税が「切り札」になる
では、肝心の「駆け込み需要」はどの程度あるのだろう――。みずほ証券の石澤卓志氏は「住宅メーカーは冷静ですよ」という。住宅メーカーなどは、現状の景気悪化と消費増税が段階的なこともあって、「駆け込み需要はそれほどない」とみている。
土地総合研究所が11月22日に発表した「不動産業業況等調査」(10月1日時点)によると、モデルルームの来場者数は前回調査(7月1日、マイナス33.3)から25.9ポイントと大きく改善してマイナス7.4となったが、成約件数は1.3ポイント悪化してマイナス5.2だった。
石澤氏は「消費者は、価格は『今が底』という意識が強いですし、駆け込みを狙う人が増えてきていることは確かです」と話す。
一方、住宅販売の現場は「駆け込み需要」に期待する。住宅メーカーは景気悪化と駆け込み需要の反動を懸念して供給に及び腰だが、「販売現場は消費増税を『切り札』にしたいという意識が強い」(石澤氏)とし、駆け込み需要を煽って消費者の購入意欲をかき立てたいようだ。