【Net@総選挙】 第3回
「いま500票差です。逆転させてください」 投票日の夕方、ツイッターで「最後のお願い」

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   インターネットに詳しい選挙参謀らの間で、今も話題に上る選挙戦がある。2010年11月に行われた石川県金沢市の市長選挙だ。

   「彼に託してみましょうよ」「今すぐ投票所へ」--。

   新人の山野之義候補(49)を支援した地元のIT企業社長A氏らは選挙期間中、応援する短文をツイッターに投稿し続けた。金沢市選管から何度か「注意」を受けたが、A氏らの「つぶやき」は投票日の投票終了間際まで続いた。

    結果は山野氏が、6選をめざした現職を退け僅差で当選。「ツイッターが勝敗の行方を決めた」ともささやかれた。公選法ではネットを使った運動が認められていないのに、A氏らのツイートは、なぜ許されたのか。

多選批判を掲げ、告示直前に立候補

   「6選に向け出馬意向固める」

   10年9月上旬、そんな見出しの記事が地元紙に掲載された。2か月後に控えた金沢市長選に現職市長が出馬し、6選をめざすというのだ。まもなく正式表明があり、連合町内会長有志や市医師会など市内の有力団体の推薦が相次いだ。4年前の前回選挙は、民主・自民などの相乗りで次点候補の4倍以上の票を獲得し圧勝。多選批判がささやかれる中でも、6選に向けた態勢は盤石だと見られていた。

   一方、自民党市議だった現市長の山野氏が出馬表明したのは、「6選出馬」の記事が出てから1か月以上後の10月半ば。多選批判を掲げ、地元の保守政界を割る形になった。自民党金沢支部は2人を推薦する異例の措置を取ったものの、山野氏の出遅れは誰の目にも明らかだった。

   11月21日告示、28日投開票の市長選は事実上、現職と山野氏のマッチレースとなった。現職優位がささやかれる中、山野氏の選対事務所に出入りするA氏らは、形勢逆転を狙ってか、告示後も積極的にツイッターで投票を呼びかけた。

   選挙期間中は、「選挙活動スタート。立候補者をしっかり見てジャッジ願います!」「金沢市長候補山野氏。現在●●で演説中です」など。投開票日はツイートの数も増し、「金沢市長選挙。本人やる気満々です。是非やらせてやってください。あなたの一票を」「投票にまだ行ってない人 彼に託してみましょうよ! 街に活気が生まれますよ!」。

   さらに投開票日の午後5時半過ぎには、出口調査の情報からか、「かなり競っています。あなたの一票を」。午後6時以降も「今、500名差です。逆転させてください。あなたの一票で新市長誕生を!」「投票まだの人、あと●分あります」と終了間際までツイートを続けた。

   A氏らの「つぶやき」は投開票日の数日前から若者たちの間で話題になり始め、「2ちゃんねる」の金沢市長選関連のスレッドには「ただ今●●で演説中ってツイッター、結構広がってるな」「言われなくても【大拡散】してますよ」という内容の書き込みも寄せられていた。

市選管の注意は聞かず、警察の警告はナシ

   ツイッターでの投票呼びかけが功を奏したのか、10年の金沢市長選の投票率は、その4年前の27.39%から8.54ポイント増えて35.93%。夜6時以降、急に若者たちが駆け付けてきた投票所もあったという。

   開票結果は、新人の山野候補5万8204票に対し、現職5万6840票。わずか1364票差で山野氏が現職の壁を破った。現職陣営の幹部は「多選批判で接戦は覚悟していたが、相手側のツイッターがなかったら勝敗は逆だったかもしれない。ルール違反は明らかだ」と悔しがったという。

   金沢市選管は2年前の市長選を振り返り、「総務省の見解に基づいて山野氏陣営には公選法違反だからツイッターをやめるよう4度注意しました。ですが、A氏らに連絡が届かなかったのか更新停止や削除とはならなかった」。思い余った市選管は期間中、県警にも通報したが、県警が公選法違反による警告を発することはなく、選挙後もA氏らの事情聴取は行われなかった。

   その理由は何か。投開票日の数日前からA氏らのツイートは「山野」という名前を記さずに投稿され、投票日も「新市長を!」という言い回しだった。そうした「テクニック」が効いたからなのか、それとも当時、中央政界ではネット選挙解禁の方向で与野党間の話し合いが進み、法案についての「合意」もできていたからか。

   ネット選挙解禁法案が廃案となった現在も、はたして警察は、同様のツイートを「黙認」してくれるのだろうか。

   「それすら判然としないのが、ネット選挙に関する公選法の現状。時代に完全に取り残されています」

   こんどの総選挙に出馬予定の、ある候補者の選対幹部は、そう苦笑した。

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