読売新聞グループ本社会長・主筆の渡辺恒雄氏(86)が2004年、運転免許を更新する際に自社の記者を使って当時の警視庁幹部らに働きかけ、正規の高齢者講習を受けることなく免許を更新していた、と2012年11月8日発売の週刊文春(11月15日号)が報じた。
文春側が記事の根拠とするのは、免許不正更新までの経緯が記された04年当時の警視庁キャップがつけていたとする「日記」である。一方の読売はこの日記を「出所不明の怪文書」として記事内容を全否定し、文春側に抗議書を送付するとともに法的措置を講じる構えだ。
座学や運転実習など3時間の講習が義務
告発スクープと銘打たれたこのトップ記事の大見出しは「天皇・総理も果たす国民の義務をブッチギリ」「ナベツネの違法行為を暴露する読売現秘書部長」「『爆弾日記』公開!」
6ぺージにわたる記事の骨格は、渡辺氏が2004年、自動車運転免許を更新する際に必要な高齢者講習を、当時の読売新聞警視庁記者クラブキャップA氏(現秘書部長)を通じて同庁幹部らに便宜を図ってもらい、正規の講習を受けずに、免許更新したというもの。
文春が記事の拠り所としたのは、独自に入手したという当時のA氏の日記だ。
文春記事から、以下、問題個所の一部をかいつまんで紹介すると、渡辺氏の免許更新をめぐる話がA氏に最初に持ち込まれたのは2004年4月12日。読売新聞グループ本社の広報部長から「(渡辺)主筆が5月30日の誕生日で免許更新になる。面倒くさい手続きを省いてほしい」と言われたのが発端だ。
2004年当時、78歳を迎える渡辺氏には、改正道路交通法によって3年に1度の免許更新時に座学や運転実習など計3時間の講習が義務付けられており、受講のがれなどは法律違反に当たる。
A氏は、「やらないほうがいい」と思ったが、広報部長の「不退転の覚悟」や「できなければ(人事で)飛ばされる」という状況を知り、部下などを頼って無理を聞いてくれそうな自動車教習所を探し、警視庁への根回しに乗り出す。同庁交通総務課長に話を持ち込み、4月22日には「総監に報告した。できる限りのことはやってやれと言われた」との回答を引き出したという。
文春「すべて事実」と確認
渡辺氏が免許更新を行ったのは5月7日。A氏は教習所まで同行。記事によると、この日のA氏の日記は
「当初予定の1階での講習は『人目につく』などの理由で2階に変更。階段で上がり、講習。といっても、視力検査だけ。(中略)所要10分。帰りに車に乗り込む際、主筆から『キャップ』と一言。巨人戦チケットをもらう」
となっている。
記事によると、渡辺氏が講習を受けた教習所社長は取材に対し「いや、書類のみだったよ。実技はしなかったよ」「たしかにそれは法令違反なんです。実技は講習に組み込まれてますから」と正規の更新時講習を受けなかったことを認めている。
。記事は2004年に加え、01年の渡辺氏の免許更新時にも言及し、このときは警視庁幹部の了解を得て、全く講習を受けずに教習所から証明書を出してもらって更新していた、と書いている。
文春はA氏が書いたとされる「日記」に関し、2004年当時、A氏と同じ本社社会部に在籍した人物から提供されたとしている。A氏は文春の取材に応じてはいないものの、文春が独自に日記に登場する出来事や人物の裏づけ作業を行った結果、「確認できうる事実関係や人物に矛盾はなく、すべて事実であることが確認できた」という。
読売「日記は怪文書」「データは改ざん・捏造の疑いが強い」
これに対し読売新聞側も11月8日、反撃に打って出た。文春側に抗議書を送りつけると同時に、「本日発売の週刊文春の記事について」というペーパーを報道各社に配布し、記事内容に徹底した批判を加えたのだ。
そのペーパーによると、文春記事が多数個所に引用したA氏が書いたする「日記」について「出所不明の怪文書と言うほかありません」と一蹴。仮に「日記」が、A氏がパソコンに打ち込んでいた業務記録だとすれば、
「そのデータの一部が何者かによって違法、不正な手段で盗み出され、悪意をもって改ざん・捏造されたものである疑いが強いと考えています」
と指摘した。
そして渡辺氏については、2004年も01年も所定通りに教習所に出向いて高齢者講習を受けており、「警視庁に不正な依頼をしたことも一切ない」「不正行為の事実はまったくない」と完全否定した。
読売は文春の見出しについても批判した。
「あたかも現職秘書部長が上司である渡辺に造反し、自ら『日記』を暴露したと印象付ける表現になっています。意図的に読者を誤導する、狡猾で悪意に満ちた見出しと断じざるを得ません」
読売新聞の11月8日付朝刊の週刊文春の広告記事の一部が黒塗りされていることにも触れ、「当社が『表現が不適切』として『現秘書部長』の部分の削除を求めたところ、読売新聞に本日掲載された広告については、週刊文春側が自らの判断でこの部分を黒塗りする形で修正した経緯があります」と記した。
ペーパーの結びでは、「以上の観点から、当該記事及び見出しは到底看過できず、読売新聞東京本社は本日、週刊文春側に対して抗議書を送付いたしました」とした上で、「さらに読売新聞東京本社は、週刊文春側及び記録の盗み出し・捏造等にかかわった人物に対し、刑事、民事両面から法的措置を適宜、講じていく所存です」としている。