日銀が2012年10月30日の金融政策決定会合で、2カ月連続の追加緩和を決めた。ここまでは、概ね予想通り。市場を驚かせたのは、政府と一体となって早期デフレ脱却に取り組むことを約束した白川方明総裁、城島光力財務相、前原誠司経済財政担当相の連名の「共同文書」を出したことだ。
2カ月連続の追加緩和は2003年4~5月以来9年半ぶりで、白川総裁になって初めて。市場が事前に追加緩和を織り込み、「少々の手では失望を招くだけ」(市場筋)という状況が作られるなか、政治圧力になすすべもなかった形だ。
よりリスクの高い資産を買い入れる枠も1兆円拡大
日銀は9月の会合で国債などの資産を買い入れる基金を10兆円増額して80兆円に拡大したばかりだが、今回はさらに11兆円増やして総額91兆円にした。1兆円半端なのは、11兆円のうち国債が10兆円で、他に社債3000億円、上場投資信託(ETF)5000億円など、よりリスクの高い資産を買い入れる枠も計1兆円拡大するからだ。
また、金融機関に年利0.1%で資金供給する「貸出支援基金」も創設。新制度の詳細は年内に決めるが、日銀は「15兆円程度の資金需要が見込める」と試算しており、銀行などの成長分野への融資を支援する成長基盤強化のための融資制度(総額5.5兆円)と統合し、20兆円規模となる見通しだ。その期限を「無制限」として積極姿勢をアピールした。
政府との共同文書は、日銀が「消費者物価上昇率1%が見通せるようになるまで、強力に金融緩和を推進していく」と明記する一方、政府は「規制・制度改革、予算・財政投融資、税制など最適な政策手段を動員する」としたが、この裏返しで、日銀は政府に「成長力強化の取り組みを推進することを」、政府は「強力な金融緩和を継続することを」、それぞれ「強く期待」と、従来からの双方の主張を述べ合った記述が目を引いた。
異例の緩和策の直接の理由は景気の減速
今回の異例の緩和策の直接の理由は景気の減速。日銀は欧州経済の停滞があっても、新興国経済が堅調なら輸出回復による成長できると展望していたが、新興国の経済減速が予想を上回り、尖閣問題の余波で対中輸出が急激に落ち込むという思わぬ伏兵も現れ、日本の景気減速懸念が広がった。日銀が決定会合に合わせて発表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)でも、2014年度の消費者物価上昇率見通し(生鮮食品を除く)は0.8%と、日銀が掲げる事実上の物価目標の1%に届かず、デフレ脱却が遠のいたことがはっきりし、「今回、追加策を打たない選択肢はなかった」(政府筋)。
政府サイドは、消費税を法律通りに2014年4月に8%に上げるためには、デフレ脱却を見通せることが不可欠で、物価1%上昇が大きな判断基準とされるだけに、日銀への圧力強化は、予想されたことだった。
ただし、デフレ脱却は、そう単純な道筋ではなく、市場や各方面の反応や評価は分かれる。
読売は歓迎の姿勢をにじませる
外為市場は決定会合までは緩和への期待から1ドル=80円に接近する円安の展開だったが、会合後は79円台前半に円が急上昇。日経平均株価も決定会合の結果公表から取引終了までの15分間で一気に150円超も下落(31日は前日水準に戻す)。「追加緩和は想定の範囲内」「力不足」との分析が交錯したが、共同文書に現れた両者の思惑の違いを捉えて「政府と日銀の『すきま風』を敏感に感じ取った」(朝日31日付朝刊2面)との指摘もある。
その共同文書は、前原誠司・経済財政相が仕掛けたもので、政府と中央銀行が政策協定(アコード)を結ぶことへの布石との見方が出ているが、その是非の見方は分かれる。31日朝刊の主要紙の社説の論調も、デフレ脱却への日銀の役割を重視してきた読売は「初めての共同文書も発表した」と歓迎の姿勢をにじませた上で、「政府・日銀の協調を『かけ声倒れ』に終わらせないことが大切」として、日銀による外債購入やインフレ目標の導入など「政府と日銀がさらに論議を深めることが求められる」と、次の一手を催促。産経(主張)は今回の追加措置を「従来の政策の延長であり、企業などの資金需要が落ち込む今、その効果も不透明だ」と、円高対策としての不十分さを攻撃し、読売と同様、外国債券の購入検討などを求めた。
朝日は「まことに見苦しい」とまで酷評
日経は政府・日銀が「連携し、日本経済を下支えする必要がある」と評価しつつ、「デフレ脱却は中央銀行の責務」と書く一方で「金利低下余地は乏しく、マネー膨張の副作用も懸念される」「工夫を凝らし、金融緩和効果を少しでも高める努力を」など両論併記的で、むしろ読売などに比べ、歯切れの悪さが目立った。
一方、金融政策への過大な依存に懐疑的な朝日は「一連の動きを見ると、政治が自らの機能停止のツケを日銀に押し付けているとしか思えない。特例公債法案の成立など、政治が責任を果たすことが先決だ」と釘を刺し、「予算の資金繰りすら始末をつけられない政治が、中央銀行に物申すことで何か一仕事しているかのように振る舞うのは、まことに見苦しい」とまで酷評。同様のスタンスの毎日は「金融政策は目標を掲げつつも、その時その時の総合判断で最善とされる決定を下さねばならない」と主張し、物価目標1%の数値の独り歩きを戒めた。