世界保健機関(WHO)と世界気象機関(WMO)が共同で、公衆衛生と気象に関する報告書を発表した。この中で、ぜんそく患者が世界で2億人を超え、増加の背景に地球温暖化の影響を示唆している。
日本でも近年、特に子どものぜんそく患者が増えている一方、国内の平均気温も上昇を続けており、関連性が懸念される。
日本でも小中学生中心にぜんそくの割合急上昇
ぜんそくを悪化させる原因は、ホコリやダニをはじめとする吸入性アレルゲンやストレス、大気汚染物質、タバコとさまざまだ。吸入性アレルゲンにはほかにも花粉、ペットの毛やフケ、昆虫などが挙げられる。
文部科学省が実施している「学校保健統計調査」を見ると、2011年度のぜんそくの被患率は小学生が4.34%、中学生2.83%、幼稚園児2.79%となっている。1986年のデータでは小学生0.9%、中学生と幼稚園児は0.7%となっていた。この25年間でぜんそくの割合が飛躍的に拡大したことが分かる。
世界でも同じ傾向がみられるようだ。WHOとWMOが2012年10月29日に発表した英文の報告書によると、今日ぜんそくを患っている人は全世界で2億3500万人に上る。欧州では成人の24%にあたる8000万人がアレルギー性疾患に苦しむが、子どもはさらに割合が大きく全体の3~4割に達し、今も増えているという。そのうえでぜんそく患者の増加には、気候変動が関連しているとみている。
報告書によると、近年では化石燃料の使用が主な原因とされる温暖化ガスの堆積で気温が上昇するのに加え、フロンガスほか化学物質が大気中に放出されることで環境や人体に与える負荷が増しているとする。ひとつの例が、紫外線レベルの上昇が皮膚に与える危険性で、もうひとつ示されたのが、ぜんそくだ。花粉が引き起こすぜんそくや呼吸器系の疾病が急増しているという。ただ、そのメカニズムはまだ十分解明されていない。
それでも、欧州でアレルゲンとして最も広がりをみせているのが花粉だという。その理由として環境や生活習慣の変化、また大気汚染物質が花粉をさらに「悪性」のものに変換しているといった点が考えられている。さらに気候変動も一因だというわけだ。
二酸化炭素の濃度上がれば花粉量も増加
報告書によると、欧州のほとんどの場所では10~20年前と比べて草木の成長時期が早まったうえ、生育期間も長期化しているという。さらに大気中の花粉量も増加。土地の使い方が時代とともに変わり、気温や二酸化炭素の濃度も変化したことが理由とみられるが、各要素がどのように作用し合って花粉量に影響を及ぼしたかは明確になっていない。だが実験レベルでは、二酸化炭素の濃度が2倍になると、ブタクサの花粉量が6割増になったとしている。
日本では花粉によるアレルギーというとスギを思い出すが、欧米ではブタクサの花粉がよく知られている。2011年はフランス南東部、ハンガリーから旧ユーゴスラビア一帯にかけての地域で特に飛散量が多かった。日本でもブタクサは全国で見られ、夏から秋にかけて花粉が飛散して花粉症をはじめアレルギー症状を引き起こす。
WHOとWMOの報告書の指摘どおり、気温の上昇によりアレルゲンとなる花粉を飛ばす植物が「長生き」し、温暖化ガスが花粉量を増やす原因となるのなら、日本でも欧州と似たようなことが起こり得る。気象庁によると、日本の平均気温は100年あたり約1.15度の割合で上昇、特に1990年代以降は高温となる年が頻発している。過去25年で爆発的に増えた小学生をはじめとする子どものぜんそくと、無関係とは言えなさそうだ。
耳鼻咽喉科の医師に取材すると、「近年は国内でもブタクサが原因でアレルギー性鼻炎を起こし、診察に訪れる患者が増えている感触があります」と話す。アレルギー症状を悪化させると「かぜやぜんそくを誘発することもある」というだけに、特に子どもにとってはいっそう注意が必要だろう。