もともとは温暖な海域に生息する「ソウシハギ」という魚が、日本全国で見つかっている。一般の釣り人がつかまえるケースも報告されているが、万一口にしたら大変だ。
ソウシハギが持つ毒はフグの70倍と言われ、人間が半日程度で死んでしまう恐れがある。各自治体では「誤って食べないように」と注意喚起に躍起だ。
フグの70倍の「パリトキシン」で6人が犠牲に
ソウシハギはカワハギ科の魚で、サンゴ礁でよく見られる。日本では沖縄をはじめ、黒潮が流れる高知県や和歌山県の南の海域に生息する。水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所に取材すると、水温が18度以上の場所でないと生きられないという。
ところが近年、岡山県や愛媛県、山口県の瀬戸内海沖に加えて鳥取県や島根県、石川県などの日本海側、さらには北海道の苫小牧沖や北部の宗谷地方でもソウシハギがとれたと報告された。瀬戸内海では、冬は水温が10度を下回る。まして北海道の海となればさらに低温のはずだ。何が起きているのか。
瀬戸内海区水産研究所は、考えられる原因として地球温暖化による海水温の上昇を挙げる。黒潮の勢いが強まると、瀬戸内海の場合は豊後水道から黒潮に乗った温かい「水の塊」が入ってくる。その際にソウシハギも瀬戸内海に入り込むと説明する。黒潮は温暖化の進行によって勢いを増すとされているため、ソウシハギの目撃情報の増加は温暖化と無関係ではないようだ。日本海側で見つかったのも、ソウシハギが暖流の対馬海流に乗ってたどり着いたのではないかと同研究所では話した。
問題は、ソウシハギが「フグの70倍」ともいわれる猛毒「パリトキシン」を内臓に含んでいる点だ。厚生労働省によるとパリトキシンは、ソウシハギのほかにもアオブダイやハコフグがもっている。1953~2009年までの間に、これらの魚による中毒が少なくとも36件発生し、6人が死亡した。ソウシハギによる死者は出ていないが、家畜が死んだという報告は出ている。
仮にパリトキシンを持つ魚を食べて中毒となった場合、その症状は強烈だ。潜伏期間は12~24時間で、主な症状は激しい筋肉痛や呼吸困難、まひやけいれんを起こすこともある。重篤な場合は十数時間から数日で死に至る。中毒が比較的軽くても、回復には数日から数週間を要するのだ。
青い波模様と黒い斑点が区別するポイント
ソウシハギがみつかった地域の自治体は、ウェブサイトを通じて警戒情報を出している。関東では横浜市港湾局が2012年9月27日、魚の写真とともに「絶対に食べないでください」と注意を促した。同局に電話取材すると、その後ソウシハギが釣れたといった市民からの連絡はないと言う。だが去年は、発見情報が1件も寄せられなかったとも話した。
釣り愛好家による目撃談も少なくない。ブログを探してみると、10月以降だけでも大分県の女性が「ソウシハギをつかまえた」と写真入りで紹介したり、神戸市の男性が、地元で開かれた家族釣り大会でソウシハギを釣った一家が優勝したとつづったりしている。ブログを書いたふたりはいずれも猛毒がある魚だと認識していたが、以前と比べるとかなり高い頻度で釣れるようになっており、それだけリスクは増しているのは間違いない。
ソウシハギは尾が大きいのが特徴で、鮮やかな青の波模様と魚の目玉のような黒い斑点が体中に見られるのが、類似の魚と区別するポイントだ。瀬戸内海区水産研究所は、「釣った際に魚に触れても問題はありません。毒の量は個体差がありますが、万一食べて中毒を起こすと、最悪の場合は死に至ることもあります。絶対に口にしないでください」と念を押した。