中国で吹き荒れた反日デモの嵐が沈静化の動きを見せている。当局がデモ禁止を通達し、破壊行為をしたとされる人物を拘束し始めた。
全土で同時多発的に起きたデモ。それが当局の鶴の一声で収まってしまう不思議。中国事情に詳しい専門家の間では、これだけ大規模な動員は、当局の関与なしにはあり得ないとする意見が出ている。
「100元(約1250円)をもらった人がいる」
北京では2012年9月18日まで連日、日本大使館前を中心に多数の中国人が押し寄せてデモを繰り返した。ところが翌19日、北京市公安局が市民に「大使館前のデモをやめるように」とメールを送ると、潮が引いたように一気に収束した。当局からの通達とはいえ、驚くべきデモ隊の「聞きわけのよさ」だ。
当局の「鶴の一声」で収まったデモだけに、実は「官製」だったのではないか――。こんな見方を裏付ける報道が徐々に出ている。
例えばミニブログ「微博」で、警察学校に通う生徒が学校側からデモ参加を命令されたと書き込んだと、9月20日付の日本経済新聞電子版が伝えた。上海では当局がバスを用意し、デモ隊を日本総領事館前に輸送したという。極めつけは、福建省のデモに参加した男性が、「100元(約1250円)をもらった人がいる」との証言だ(共同通信9月20日付)。事実であれば当局が金銭を払って動員をかけたことになる。
尖閣の周辺海域で操業するために集まった漁船に対しても、「カネ」が動いたという話が出ている。中国浙江省の船主が読売新聞の取材に、尖閣に向かう漁船に「当局から10万元(約125万円)の補助金が出る」と明かした。地元の漁業規制当局によるもので、複数の船主が認めたという。
9月20日に放送された「報道ステーション」(テレビ朝日系)で、産経新聞中国総局特派員の矢板明夫氏は、中国各地で反日デモを実施するのは当局の指示なしでは考えにくいと指摘した。同氏が注目したのは、中国共産党の中央弁公庁という機関だ。日本政府の内閣官房に似た、各部署の調整役を果たす重要な機関で、「あらゆる部署に(中央弁公庁が)指示して調整を図った」という。同氏の見立てが正しければ、党内の高いレベルで反日デモ実施の意思決定がなされていたことになる。
デモの次は「経済制裁」に乗り出す
中央弁公庁では9月初めに人事異動があった。新たにトップに就いた人物が、次期指導者とみなされる習近平氏の側近だという。こうなると、習氏の意向を受けて中央弁公庁がさまざまな調整を図り、デモや漁船団の準備を進めたと解釈できる。「裏で陣頭指揮を執っていたのは習氏」と矢板氏は話す。推測の域は出ないが、ほかにも「習氏黒幕説」を唱える専門家はいる。
もともと習氏は対日強硬派とも言われる。米国のパネッタ国防長官との会談では、「日本の尖閣国有化は茶番だ」と厳しく批判し、尖閣問題では一歩も引かない構えを見せた。
デモは収まってきたが、一方で中国当局は別の方法で対日制裁を打ち出してきたようだ。中国の税関では日本からの輸入品に対して通関手続きを強化し、長引けば現地日系企業にとって部品などの調達に遅れが生じる恐れが出てきた。レアアース(希土類)の対日輸出を制限するのではないか、とのうわさも浮上している。日本を旅行する予定だった中国人観光客が続々とキャンセルしており、観光地では影響が懸念される。経済面で、さらなる締め付けをかけてくる可能性がある。