欧州金融危機の「主役」となったギリシャ。2012年6月の選挙では、緊縮財政の推進とユーロ圏残留を掲げる新民主主義党(ND)が勝利して混乱はひとまず収まったものの、その実行に向けて今秋から新たな段階を迎える。
選挙から2か月、ギリシャはどうなっているだろうか。J-CASTニュースは首都アテネで住民の声に耳を傾け、現状を探った。
アクロポリス近くのレストラン街は「閑散」
アテネ随一の観光スポット「アクロポリス」への玄関口、モナスティラキ駅近くにはレストランが軒を連ねる一角がある。その中の1軒に入った。店外に用意されたテーブルに座ったが、好天でカラっとした陽気のため、ひさしの陰であれば爽快だ。店の中のスペースを含めると座席数は50人ほどのようだが、昼食時のピークを過ぎているせいか食事をしているのは4、5人ほどと少ない。
案内されたテーブルのすぐ横で、男性店員が客の呼び込みをしている。記者には英語で「来るのを待っていたよ、さあ入って」と笑顔で声をかけてきたが、様子を見ているとフランス語、イタリア語、スペイン語を駆使し、さらにはカタコトの日本語で「ここ、おいしいレストラン」などと日本人女性の2人組を誘っていた。一息ついていたときに最近の客の入りを聞くと、「8月に入ってからは、まあまあだね。でもその前の数か月間は低調だった」と肩をすくめた。
ギリシャ名物と言われる「ムサカ」にパン、果物のジュース、食後にコーヒーを注文して16ユーロ(約1570円)と「観光地価格」にしてはそれほど高額には感じない。料理を運んできた別の店員とも話したが、「あまり景気はよくない。2、3年前はもっと客が来ていたよ」と浮かない表情を見せる。近隣の欧州諸国からやって来る観光客は、2012年になって減ったようだ。
食後に通りを歩いて他のレストランを観察すると、どこも似たような様子だ。時間帯によっては盛況かもしれないと、翌日の正午前後にも同じ場所を通ったが劇的な変化はなく、満席の店はなかった。
観光産業はやはり、不振だったのか――。アテネ空港では出発、到着ロビーとも混雑がみられ、この日訪れた遺跡群でも観光客の出足はまずまずだと思っていた。だが例年のバカンスシーズンと比べると、観光ビジネスに携わっている地元の人たちからすれば「さっぱり」のようだ。
ホテルは宿泊客を確保しようと割引を多発
記者がレストランで店員から耳にした話を、アテネ在住の女性が裏付けた。
アクロポリスに隣接するプラカ地区は、昔ながらのおしゃれなたたずまいの店が並ぶ観光客に人気のスポットだ。記者が歩いた日もある程度の人出があったが、その女性に言わせると「以前は観光シーズンともなれば、前に進めないほどビッシリと人であふれていました」というから驚く。
確かに表通りはにぎやかに見えるが、少し裏に入るとガランとしていて、ほとんど開店休業状態の店もあった。レストランは客引きに懸命で、ランチタイムでも空席の多い店がちらほら目に入った。土産物店の店員の決まり文句は「表示価格の半額で販売しますよ」。たたき売りしてでも何とかしたいようだ。地元民にすれば、ほんの数年前と比べると「隔世の感」があるかもしれない。
観光立国のギリシャでは夏のバカンスを過ごそうと、例年多くの人がやって来ていた。2011年には過去最高となる1650万人が訪れ、観光産業全体でGDPの15%超を占めるとも言われている。だが長引く金融危機から社会的に不安定な状態が続き、11年秋から大規模なゼネストや反政府デモが繰り返された。政府の緊縮財政に反発した若者を中心に、アテネ中心部で警官隊とたびたび衝突。一部が暴徒化して店舗を襲撃した。
記者が訪れた8月下旬のアテネは、混乱は全く見られず、デモの舞台にもなったシンタグマ広場は日常の姿を取り戻していた。だが、デモの映像が各国で繰り返し流されたこともあり、ギリシャに治安面での不安を感じて旅行先として敬遠した人は多いかもしれない。
地元の人に聞くと、ホテルは宿泊客を確保しようと割引を多発しているという。欧州向けの低価格パックツアーも増えているそうだ。思うように集客できないなか、それでも観光に頼るしかないギリシャの苦闘は続く。