韓国サムスン電子が、複写機・複合機事業強化に乗り出すようだ。既に世界シェアではトップ5入りしているが、上位メーカーとの差はまだ大きい。
しかしサムスンには、自前で開発している半導体という「武器」がある。米アップルのスマートフォン(スマホ)「アイフォーン(iPhone)」に供給しているチップを使った機器を開発し、ライバルの日本企業の追い落としを図る。
スマホと同じ処理能力を持つ複写機
今やiPhoneと人気を二分するスマホ「ギャラクシー」シリーズに有機ELテレビと、話題の製品を発表し続けるサムスン電子。2012年8月30日付の米ブルームバーグは、「ソニーやパナソニックを負かしてきた」サムスンが「次に日本企業の独占を終わらせる」うえで目を付けたのが、複写機・複合機市場だと伝えている。
米調査会社IDCは2012年2月17日、単機能プリンターや複合機、デジタル式プリンターを合わせたメーカー別の2011年の世界市場シェア(出荷台数ベース)を発表した。首位は米ヒューレット・パッカードで全体の41.5%を占める。2位にキヤノン、3位はエプソンと日本企業がランクイン。これにサムスンが4位で続く。シェアは5.7%にとどまるが、前年比4.3%増と「トップ3」のどこよりも伸び率は高い。
米国サムスンのウェブサイトを見ると、個人消費者向けの比較的安価な製品から、1秒間に55枚印刷する高スピード、高スペックのオフィス用まで、50種類の機種が紹介されていた。既に米カリフォルニア州政府との契約にこぎつけるなど、大口の顧客を獲得しているようだ。
シェア世界一を目指す「目玉」となるのが、「iPhone 4S」の心臓部として使われているプロセッサーの採用だという。カラーの複写機やプリンターがスマホと同等の処理能力を備えることで、多様なはたらきが期待できる。ブルームバーグは「サムスンの話」として、新型機はひとつのチップにプロセッサーを2個積んだ「デュアルコア」の初のモデルになることや、従来のモバイル機器で用いられている既存のチップ開発技術を使うので、開発コスト低減や不具合の抑制にもつながる点を挙げている。しかもサムスン製チップは、現在アップルと係争中のスマホ上の特許技術の対象から外れているため、新型機の開発に投入しても問題がないというわけだ。
日本国内では「名前は聞いたことがありません」
海外ではシェアを伸ばすサムスンも、日本国内では今のところ「無名」だ。調査会社BCNのアナリストに取材すると、コンシューマー向け複写機・複合機の市場で「サムスンの名前は国内では聞いたことがありません」と首をかしげた。事務所で使う複合機などのリースでもサムスンのモデルを探したが、こちらも見つからなかった。
ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)が2012年2月2日に発表した2011年の複写機・複合機出荷実績は、国内向けが51万9938台、海外向けが339万5855台となった。8月1日付の日経産業新聞によると、国内シェア順位はリコー、キヤノン、富士ゼロックスが「3強」でこれにシャープが続く構図だ。ここでもサムスンは浮上してこない。
エレクトロニクスメーカーがひしめき、「特殊な市場」と言われる日本にサムスンが複写機・複合機で本腰を入れて参入してくるかは不明だ。ただ世界を見渡すと、現状ではキヤノンやエプソンの後塵を拝しており、リコーや富士ゼロックスといった強敵もひしめいている。いずれも日本企業だ。ブルームバーグは、これら4企業の合計が2011年の世界シェアでほぼ5割を占めたとの調査結果を伝えた。
市場自体の大幅な成長も望みが薄い。前出のIDCの調査によると、2011年の世界市場の成長率は前年比0.7%増にとどまった。国内市場も、JBMIAによれば前年比1.7%減と厳しい状態だ。パイが拡大しない中でシェアトップに立つには、必然的に日本メーカーから奪うしかない。
日本メーカーも悠然と構えていては、薄型テレビの分野でかつて優位に立っていた企業がサムスンに追い落とされたのと同じ「悪夢」に襲われる可能性はある。