福島原発事故由来に放射性物質に汚染されて行き場をなくした自動車スクラップが福島県内を中心とした自動車解体業者の作業場に溜まりだしている。
破砕業者(シュレッダー業者)が定めた「自主基準」が国内で原発事故が起こることを想定していないことが、混乱の原因のひとつとなっている。
放射線量レベル高いスクラップの入庫拒否
事故から1年以上過ぎて、福島県内の解体業者に引き渡される解体車の放射線レベルは県内の空間線量前後に落ちつきだし、「高濃度に汚染された解体車は少なくなった」(福島県内の複数の解体業者)。一方で「除染不可能と思うえるものは、これ以上引き取りたくない」との態度も示す。後手に回った対策のつけがとんでもないところで噴出する。そうした気配が濃厚なのだ。
「使用済自動車」などと呼ばれる解体車は、解体業者にわたり大まかな処分がされた後、破砕業者に集められ、大型のシュレッダーにかけられて裁断、鉄、非鉄金属といった再生資源に処理されている。
破砕業者は海外との取引経験も豊富で、チェルノブイリ原発事故後の国際的な鉄スクラップ流通の混乱などを経験している。海外では国により時間当たり0.3~0.5マイクロシーベルトの範囲で放射線量の基準が設定され、基準を超えた鉄スクラップの輸入を認めていない。この基準を破砕業者が独自の自主基準に採用しているために、放射線量レベルの高い自動車スクラップの入庫が拒否されて、解体業者の作業場に山積みされだす結果になっている。
法的には黙認状態になっている
日本では「自動車リサイクル法」が2005年1月から施行され、解体業者には対して一定期間内で処理し、破砕業者に引き渡すことが決められている。関連業界では原発事故直後から自動車の汚染と業界自主基準の狭間で、自動車スクラップの流通が困難になることが指摘されてきたのだが、行政の具体策が示されないまま推移し、問題が顕在化してきた。今のところ、放射線問題で処理が進まず、解体業者に滞留している自動車スクラップに関して法的には黙認状態になっている。
2~3カ月前に全国の港湾で放射線レベルの高い中古車が荷受け拒否され、輸出できずに荷主が持ち帰ったといった事態が話題になったが、問題の構造は同じだ。港湾業者が定めた時間当たり0.3マイクロシーベルトという自主基準が壁になった。
輸出手続き不可ということは、汚染を世界に広げない意味があるが、輸出業者が持ち帰った中古車がどうなったかは気にかかる。東京電力は輸出できなくなった中古車に対する損害賠償を認めているが、手続きが面倒で積極的に利用する業者は少ない。仮に福島県から遠く離れた場所で、格安な中古車として売られていたとしたら汚染の拡散につながっていく可能性はある。
時間とともに放射性物質の除染困難に
事故後、影響が深刻な地域から持ち出された車両の何割かが、行き先のないスクラップとして積み上がりだしていると推定できる。しかし、国の処理方針も基準もないために、汚染された中古車、解体車の国内流通を防ぐ対策は進んでいない。福島県内の中古車業者の団体、JU福島が中古車の放射線量を計測するなど、対策は業界一部の自主的努力に留まっている。
一方で、福島市や郡山市、いわき市といった周辺で所有し、使用していた車両の一部に高い放射線レベルの車両があり、解体業者にくるケースがあるそうだ。解体業者が除染して処分しているのが実態だが、時間の経過とともに放射性物質が窓枠のゴム部品内部やラジエーターに浸透し、除染しにくくなりだしている。結果的に原発事故の被害車両の数も増えそうな気配は濃厚なのだ。