エクアドル政府は2012年8月16日、内部告発サイト「ウィキリークス」のジュリアン・アサンジ代表の同国への政治亡命を認めると発表した。女性レイプの容疑で2011年末にロンドンで逮捕されたオーストラリア出身の同代表は、スウェーデンへの身柄移送をめぐって法廷闘争を続けたが、英最高裁は6月中旬に訴えを却下。その数日後に万策尽きたアサンジは、ロンドン市内のエクアドル大使館に逃げ込み亡命を要請していた。
亡命は許可されたものの、アサンジにとっての最大の難関は出国である。英当局は治外法権のある大使館から一歩でも外に出れば即刻逮捕するとして、警官が昼夜大使館前を見張っている状態だ。
エクアドル大使館の一室で寝起き
アサンジは大使館の一室で寝起きし、サイト運営にも携わっているようだ。だがエアーマットで寝る生活が2ヶ月近くにもなり、肉体的および精神的にもストレスが高まっているとの情報もある。軟禁状態がいつまで続くかは不明だが、当面打開策はないようだ。
欧米の報道ではいくつかの出国シナリオが論議されている。そのひとつは本国とのやり取りに使う外交郵袋(英当局は無断で開封できない)にアサンジが身を潜める案である。映画ではありそうな話だが、現実には人間サイズの郵袋は目につきやすく、大使館から空港までの移送が問題になるだろう。
ふたつ目のシナリオは、エクアドルが飛行機をチャーターし、外交特権で守られた大使館の車でアサンジを空港まで送り届けることだ。問題は、在英エクアドル大使館はマンションの一室なので、出口は正面ドアしかなく、アサンジが路上の車にたどり着くまでに逮捕される可能性が高いことだ。
エクアドルが国連大使に任命!?
第三のシナリオは、アサンジがエクアドルの市民権を獲得し、同国政府がアサンジを例えば国連大使に任命するというものだ。そうすれば、外交官になったアサンジに英政府は手が出せず、「アサンジ大使」は大手を振ってヒースロー空港を飛び立ち、首都キトに向かうことができるだろう。だが、エクアドルが援助の手をそこまで延ばすかは疑問だ。
いずれにしても、アサンジ亡命に立ちはだかる障害は英国からいかに脱出できるかだ。国境を超えたオンラインの世界で名を成したアサンジが国境の俘虜になるという現実はあまりにも皮肉である。
(在米ジャーナリスト 石川 幸憲)