ロンドン五輪の男子サッカー3位決定戦で、韓国の選手がピッチの上で領土問題にかかわる政治的メッセージを掲げた問題で、国際オリンピック委員会(IOC)が調査に乗り出した。
韓国側は「大した考えはなかった」と選手を擁護するが、調査の結果次第では銅メダルがはく奪される可能性もある。
憲章違反は「失格」、メダルは返還と規定
韓国サッカー男子五輪代表の朴鍾佑選手は日本との試合後、韓国が領有権を主張する島根県・竹島について「独島(竹島の韓国側の呼称)はわが領土」とハングルで書かれたカードを掲げた。五輪憲章50条では、五輪開催場所や会場その他関連施設において、いかなる政治的な宣伝活動も認められないと規定されており、朴選手の行為は憲章違反にあたる。実際に朴選手は、メダル授与式の出席をIOCに拒まれた。
IOCは、韓国の五輪組織である大韓体育会(KOC)に詳しい説明を求めているとの声明を発表。また英BBCニュース電子版によると、五輪のサッカー運営を担当する国際サッカー連盟(FIFA)に対して朴選手の処分を要請し、詳細は後日決まる。
五輪憲章は、個々の競技者やチームが違反行為を行った場合の処置を定めている。それによると、五輪大会の出場について一時的または永久に「欠格」となるか除外される、また失格や資格認定が取り消されるとある。失格・除外の場合は、憲章に違反して獲得したメダルや賞状はIOCに返還しなければならない。これに照らし合わせると、今回の行為でメダルはく奪、さらには今後の韓国サッカーチームの五輪出場に影響を及ぼす可能性がある。
複数の韓国メディアは、KOCやチーム関係者の証言として、朴選手は観客席から「たまたま渡された紙」を「深く考えないで掲げてしまった」だけで、「政治的な意図はなく、あくまでも偶発的」との主張を紹介した。故意か偶然かの違いで処分内容が変わるのかは、憲章に規定されていない。日本オリンピック委員会(JOC)に取材すると、「あくまでもIOCの判断によります」という。
処分の対象となる側には釈明の機会が与えられるが、「深く考えない行動だった」との弁解は説得力に欠ける。JOCによると、出場選手全員は五輪の参加条件として「エリジビリティー」の書式に署名、提出が求められるが、ここには「五輪憲章に記載された内容を理解し、順守する」との項目があるという。全選手対象なので、朴選手ほか韓国チームの選手全員も当然署名しているはずだ。つまり、憲章を守ると誓約したうえで行為に及んだことになる。しかも朴選手が客席から渡されたメッセージはハングルで書かれていた。内容が分からないはずはなく、「政治的意図はなかった」との言い訳が通用するだろうか。
差別反対も「政治パフォーマンス」として処分
処分が韓国チーム全体に及ぶかどうかも、IOCの裁定次第だ。ただ、韓国・中央日報電子版2012年8月13日付の記事は、チームの主将を務めた具滋哲選手が2点目を決めた後に「独島はわが領土」を表現するパフォーマンスを考えていたと明かした。結局は選手たちと万歳をしたが、これも領土問題に関して「少なからず意味を内包するパフォーマンス」(中央日報8月11日付記事)だったようだ。一方、朴選手の行動をチームメートがとめた、との話は聞こえてこない。チーム全体が何かしらの「意図」を持っていたのではとの疑念もわく。
元JOC職員の伊藤公氏は、8月13日放送の情報番組「モーニングバード!」で「メダルのはく奪はあり得る」と話した。世界各地で政治問題が紛糾しているなか、世界中の注目が集まる五輪の場で自分たちの立場を訴えたいという国や地域は多いはずだ。それだけに、憲章の理念を無視した朴選手は「罪が重い」と伊藤氏は指摘する。処分の対象が朴選手個人か、チーム全体に広がるかについては、「IOCの判断による」と話すにとどめた。
過去の五輪で、自身の「メッセージ」で処分された例はある。1968年のメキシコ五輪、陸上男子200メートルの金、銅メダリストはともに米国の黒人選手だった。2人は表彰式で、黒人差別に抗議するために黒い手袋をはめ、米国国歌の演奏中にその拳を突き上げた。これは、当時の米国の公民権運動で見られた差別反対の意思表示だ。IOCはこれを政治的パフォーマンスと断定。メダルははく奪しなかったが2人を選手村から追放し、米国代表チームから除名した。
シドニー、アテネ、北京と五輪3大会に出場した元陸上選手の為末大氏は、ツイッターで政治と五輪に関して発言した。メキシコ五輪の「差別反対行動」について、当初は「黒人差別解放が進んだんだからいいんじゃないかと思っていた」が、その後は五輪精神の根幹にかかわることだと考えるようになったという。「スポーツは相当に意識して守らないと、世間に与えるインパクトが強いだけにすぐ政治の道具になってしまう」からだ。
今回の朴選手の行動については、五輪の精神を攻撃したことに「日本人としてではなく、ひとりのオリンピアンとして」怒りを感じると発言。続けて「大事な事はあの選手が準備していた事を韓国選手団自体が把握していたかどうか、もしくは指示をしたかどうか、これを調査してはっきりさせる事が大事だと思う」としている。