千葉県いすみ市岬町の夷隅川で、100匹近くのエイが群れをなして上流に向かっていく姿が目撃され、話題になっている。
最初は2012年7月17日朝に見られ、目撃した人が撮った写真や証言によると、茶褐色の平べったいようすから、専門家や漁業関係者らは「アカエイ」ではないか、とみている。
「初めて見た人は驚いたでしょう」
夷隅川を遡上する「アカエイ」は、河口から約3キロ付近で発見された。川面は茶褐色の大量のエイで覆われたが、昼前には姿が見られなくなった。
ところが、その翌18日朝も同じ場所に現れたことで、「昨日あたりから、ちょっとした騒ぎになっていますね」(夷隅川漁業協同組合)と、物珍しさにメディアも含め、見物人が押しかけてきた。
とはいえ、地元は冷ややかだ。いすみ市農林水産課によると、「エイが夷隅川を遡上する行動は、それほど珍しいことではないです」と、落ち着いて話す。
夷隅川漁協は、「とにかく大量ということと、時期的に少し早いことがあって、珍しがられているのではないでしょうか」とみている。例年であれば8月上旬あたりから見られる光景で、「これまで、7月にはなかった」そうだ。
「でも、初めて見た人は、海で泳いでいるエイが川で、しかも大群をなしていたことに驚いたでしょうね」(夷隅川漁協)
「アカエイ」は、尾を含めた全長は最大2メートルに達する。左右の胸ビレは緩やかな曲線を描き、体表はほとんど滑らかで、尾は細長くしなやかな鞭のよう。背面に短い棘が並び、中ほどには10センチほどの長い棘が1~2本ある。
触ったりしなければ人を刺すことはないが、この長い棘には毒腺があり、刺されると激痛に襲われ、アレルギー体質の人などはショック死する恐れもあるほど強力だ。
ふだんは浅い海の砂泥底に生息し、目と噴水孔、尾だけを砂の上に出す。餌は貝類や頭足類、甲殻類、魚類など底生生物を幅広く捕食する「肉食系」という。
東京のしながわ水族館に聞くと、「河口付近では潮の干満によって、見られることがあります」と、目にする機会は少なくないという。
「あれだけ多くのエイが川に現れることは珍しい」
東海大学海洋生物学科の専任講師である堀江琢氏は、「アカエイである確証はない」としながらも、「(アカエイが)淡水域に入ってくることはありますし、タイなどではよくみられます。なぜかは不明ですが、餌になる貝類があったりすることは考えられます」と説明する。
地元の漁業関係者は「夏にかけて、産卵のために遡上する」とみているが、アカエイのメスは交尾後に体内で卵を孵化させ、浅海で5~10匹の稚魚を産む。河口付近で産卵する場合もあるが、堀江氏は「(夷隅川のエイは大きさが)40センチ程度ということは、ちょっと小さいですね。アカエイのメスは尾を除いても80センチ~1メートルほどにはなりますから、産卵のために遡上したとは考えられません」とみている。
それでも、「あれだけ多くのエイが川に現れることは珍しいといえます」と驚く。
いすみ市岬町の太東漁港のある、夷隅東部漁業協同組合太東支店も、「通常、エイは網にかかっても(漁業価値が高くないので)漁師さんがその場で(海に)帰してしまい、水揚げされることはありません。河口に近いとはいえ、ちょっと異常な感じがします」と話す。