野村證券を傘下にもつ野村ホールディングス(HD)の個人株主が株主総会に向けて「おもしろすぎる」提案を突きつけ、話題になっている。
野村HDの商号を「野菜ホールディングス」に変更しろ、に加え、トイレはすべて和式にして、足腰を鍛えろ、といった、皮肉混じりの「おちゃらけ」もあるが、「東京電力、および関西電力に対する融資、投資を禁ずる旨を定款に明記すること」と、「一石を投じる」内容も含まれている。注目の株主総会は2012年6月27日だ。
代表取締役社長は「代表クリスタル役社長」と呼べ
野村HDに100項目もの提案が、1人の個人株主から寄せられた。株主総会の招集通知にはこのうち、「株主総会に付議するための要件を満たすもののみ」、18議案を記した。
これほどの項目が提案されたケースはめずらしいが、野村HDの取締役会は当然のように、すべての議案に対して「反対の意思」を明確にしている。
議案をみると、商号を「野菜ホールディングス」に変更することのほか、たとえば国内の略称を「YHD(ワイエイチデイ)」と表記し、営業マンは初対面の人に自己紹介をする際には必ず「野菜、ヘルシー、ダイエツトと覚えてください」と前置きする旨を定款に定める(第3号議案)と提案している。
提案理由を、その株主は「現在の称号は長すぎて、著しく業務効率を悪化させている」と指摘。さらに、「これから三菱東京UFJ銀行の支配下に入りでもしたら、野菜證券は『三菱UFJモルガンスタンレー野菜證券』となってしまうのではないかと考えると今から悩ましい」と懸念している。
さらに、取締役の社内での呼称を「クリスタル役」とし、代表取締役社長は「代表クリスタル役社長」と呼ぶ旨(第13号議案)を求めたり、オフィス内の便器はすべて和式にし、足腰を鍛錬して、株価四桁を目指して日々ふんばる(第12号議案)よう、求めたりした。
株主は「取締役会がその機能を十分に果たしていないのだから、呼称などいい加減なものでいい」と説明し、「貴社はいままさに破たん寸前である。今が『ふんばりどき』」と、檄を飛ばしているようでもある。
欧州危機の影響があったとはいえ、野村HDは2012年3月期に業績不振に陥り、一時は三菱UFJフィナンシャル・グループの傘下入りもウワサされ、株価は1月4日には年初来安値の238円まで下落した。
総額12億ドルの大リストラで決算では黒字を確保したものの、6月22日の終値も前日比3円高の287円に低迷したまま。株主への配当は前期の1株あたり8円から6円に減配した。
それにもかかわらず、経営陣の1人あたり平均報酬額は約1億6000万円と、前年より約8割増えているだけに、経営陣への「批判」を、皮肉交じりにたっぷりと盛り込んだということらしい。
提案は「ある意味、株主の本音ですよ」
提案者とは別の個人投資家は、「18の議案はある意味、株主の本音ですよ。業績悪化で増資を余儀なくされて実施。結果的に一株あたり価値の希薄化を招きました。そのことも議案でふれていました。株価の下落で損したのも事実ですし、半分は嫌がらせでしょうが、株主は怒りたくもなりますよ」と話す。
そして、「経営陣がどう説明するのか聞きたい」と思い、当初行くつもりがなかった株主総会へ、今回は出席するともいう。
また別の個人投資家は、「新手の総会屋みたいなもの。反原発派が喜びそうな問題提起も含まれていて(第11号議案)、まともではない」と指摘。かつての総会屋事件を思い出したと話している。
加えて、野村證券が2010年の東京電力債など3件の公募増資情報をめぐるインサイダー取引事件で、証券取引等監視委員会による特別検査が今なお続いている。
嫌がらせなのかどうかは別として、6月27日の野村HDの株主総会が平穏に終わることはなさそうだ。