夏の「節電」「停電リスク」を目前に、野田佳彦首相が関西電力大飯原子力発電所3、4号機(福井県おおい町)の再稼働を決断した。2011年3月の東京電力福島第一原発の事故以来、定期検査で停止した国内の原発が再稼働するのは初めてになる。
関電は原発稼働ゼロの場合に、火力燃料費の負担増などで2013年3月期は前期に比べて約4000億円のコスト増を見込んでいたが、2基が再稼働すればコスト増は約2400億円に縮小する見通しとしている。
東電の債務超過額6221億円
野田首相は2012年6月16日午前、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働をめぐり、原発が立地する福井県の西川一誠知事が再稼働に同意する意向を表明したことで「地元の了承が得られた」と判断し、再稼働を正式決定した。
国内の原発は現在50基(廃炉となる福島第一原発1~4号機を除く)。北海道電力泊原発3号機が5月5日に運転を停止して以来、国内では42年ぶりに「原発ゼロ」の状態が続いてきたが、約2か月で終わる見通しとなった。
関電も、火力発電にかかる燃料費のコスト増で苦しい台所事情だったがひと息ついた。
そうした中で、経済産業省が全国50基の原発を2012年度中に「廃炉」にすると決めた場合、電力会社10社であわせて約4兆4000億円の損失が生じるとの試算をまとめていたことが6月18日、わかった。この試算は、民主党議員の要請で策定したとされる。
それによると、東京電力と東北電力、北海道電力、日本原子力発電の4社は資産で借金を返せず、経営が行き詰まる「債務超過」に転落する。
試算は、廃炉となった原発設備や核燃料の資産価値がなくなり、「損失」として計上するために生じる。つまり、従来は資産として計上していた原子力発電所が巨額の「損失」になったわけだ。
たとえば、東京電力の場合、2012年3月期連結決算ですでに福島原発1~4号機の廃炉費用として9001億円を計上。その一方で、原発や核燃料にかかる設備を資産として7263億円を計上した。そのため、原発事業だけで1738億円が不足することになる。
東電は原発関連の損害賠償費用とともに不足分を、1兆円の公的資金を資本注入して「救済」してもらったのは周知のとおりだ。
経産省によると、東電の純資産額は原子力損害対策費や工事費の引当金などの負債がかさみ5274億円にまで減り、損失額は廃炉処理の場合には1兆1495億円に膨らむため、債務超過額は6221億円にのぼると試算している。
廃炉には多額の費用がかかる
経産省の試算では、純資産額が多い電力会社ほど債務超過を免れることになるが、電力各社の資産は原発に大きく左右されるようだ。
中部電力や中国電力は原発への依存が低いものの、それでも原発は資産の約3割を計上している。関西電力は資産価値が低い古い原発が多いとされるが純資産額の約5割を原発資産が占めている。
北陸電力は純資産額が3197億円にもかかわらず、2基しかない原発が廃炉なれば、3135億円の損失額を計上することになる。純資産額と損失額との差は、わずか62億円と乏しい。
つまり、原発廃炉にした場合、12年3月期決算で計上した純資産額をほぼ失うか、3~5割目減りすることになる。
しかも、経産省の見積りには使用済み核燃料の保管費用や再処理費用を加算していない。廃炉にはもっと多額の費用がかかるということだ。