経済危機に見舞われているギリシャが、欧州連合(EU)の通貨「ユーロ」から離脱する可能性は少なくない。
しかしEU加盟前の通貨に戻しても、国際金融市場での信用力の低さから効果は上がらず、「自殺行為」との声もある。ギリシャの人々は「Xデー」の到来を恐れて、銀行へ詰めかけている。
誰もお金を使わず、街は低価格飲食店があふれる
デンマークの大学で学ぶ男性Aさんは、家族がアテネに住んでいる。年に数か月ほど帰省するが、最近はギリシャの人々の暮らしぶりの変化がいくつか目につくようになった。ひとつは「誰もがお金を使わなくなった」という点だ。持ち物をできるだけ長持ちさせようと必死なのだ。大都市では、ファストフードのような低価格の飲食店をよく見るようになった。多くが繁盛していて、一種の「格安ブーム」のようだ。
別の理由で混雑しているのが銀行だ。ギリシャがユーロ圏にとどまるかどうか分からない現状で、「市民はまるでパニックに陥ったように、こぞって銀行口座からユーロを引きだしています」と話すAさん本人も、ユーロから現在住んでいるデンマークの通貨「クローネ」に多くの額を換金した。「でもこれは、始まりに過ぎない」と感じている。「ユーロが南欧では、より大きな混乱をもたらすかもしれませんから」
ギリシャの銀行では、預金の引き出しが加速している。いつ「預金封鎖」が発動されるかどうか分からないからだ。米ウォールストリートジャーナル電子版は2012年6月14日、銀行幹部の話として1日あたり6~9億ユーロ(約600億~900億円)に達しているとし、再選挙の投票日直前には最大15億ユーロ(約1500億円)になる可能性を示唆した。債務危機が顕著になった2009年後半以降、ギリシャの銀行は預金の3分の1を失った。預金流出が加速していることを考えれば、事態が深刻化しているのは間違いない。
もうひとつAさんが気付いたのが、失業者の増加。「誰もが、職を失った知人がひとりはいます」。就業者は「いつクビを切られるか」と疑心暗鬼だ。友人たちは、学生生活を終えたらギリシャ国外での就職に活路を見いだす。自身もギリシャで職探しをするつもりはないようだ。大学院で比較文化、特に日本と東南アジアを専門とすることもあって「卒業後は日本の欧州系企業で働いてみたい」と望んでいる。
EUの金融支援「末端の人まで行き渡らない」
Aさんの父はアテネ中心部のシンタグマ広場の近くに住む。帰省の際、父を訪ねるため広場の付近を歩いていると、100~150メートル間隔で武装した警官が警護している様子が目立ち、こう感じた。「暴動が鎮圧されたあとなのに何だろうか」。この広場は、ギリシャ市民が反政府デモを繰り広げた場所としても知られるからだ。物騒な目にあったわけではないが、通りは落書きにあふれるなど以前とは違う姿に見えた。
「どの政党も、汚職や親族のコネにまみれている」と政治に落胆しているAさんだけに、6月17日の再選挙にもあまり期待がもてないようだ。一方で気になるのが、極右政党の台頭だという。経済が危機的状況に陥った国に極端なナショナリズムがわきおこった例は、歴史的に何度もある。
続々と銀行に詰めかけ、預金を下ろす市民。海外に職を求める若者たち。期待できない政治と、ギリシャ復活の道は険しい。Aさんは「いっそユーロ圏を離脱した方がいいのでは」と大胆な意見を口にした。「現状のまま追加の金融支援を受けても、末端の人たちまで恩恵が行き渡るとは思えないのです」。