オフィス「室温29度で節電」は違反? 厚労省通達は「28度以下」だが・・・

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

   福島第一原発事故の影響で昨夏はどの企業も節電対策に追われたが、ハウス食品の浦上博史社長が2012年5月8日に行われた記者会見で、今年は冷房の温度設定を29度にはせず、従来の28度に戻すと発表した。

   29度では従業員の負担が大きく仕事の効率が上がらないし、他の節電対策でも10年比15%の削減は可能、というのが理由だが、ネットの一部では、「29度に設定していたとすれば法律違反ではないか?」などと騒ぎになった。

安衛法では「28度以下」と決められている

   ネット上の理屈はこうだ。労働者の安全と健康を確保するための「労働安全衛生法」の 事務所衛生基準規則5条3項には

「事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が十七度以上二十八度以下及び相対湿度が四十パーセント以上七十パーセント以下になるように努めなければならない」

と書かれている。そのため、意図的に29度に設定するのは違法だ、というのだ。

   ハウス食品に話を聞いてみたところ、同社広報は「労働安全衛生法」は当然理解しているが、11年5月13日と20日に厚生労働省の労働基準局長が事務所の室内温度設定について新たな指針を出したため、それに従っている。指針では、節電のために29度設定もありえることを明記している。オフィスを29度に設定しても社員の負担にならないように、扇風機の設置や、換気、飲料水の確保など十分に注意を払い節電に努めた、と説明した。

   つまり昨年は電力不足が予想される夏に向けての特例措置があった、ということなのだが、厚生労働省に聞いてみると

「29度にしてもいいという特例措置は出していません。そのため、安衛法にあるように28度は守っていただくことになります」

という返事が返ってきた。ただし、28度というのはあくまで努力目標のようなもので、違反したからといっても直ちに処罰の対象になるものではないという。

   それではハウス食品がいう11年5月13日と20日に出した労働基準局長の指針とは何だったのだろうか。

不測の事態が起き29度になった際の注意喚起だった

   東京労働局に問い合わせてみると、労働基準局長名で都道府県労働局長宛に通達した「基発0520第6号」のことではないか、ということだった。その文章の中には

「事業者の自主的な取り組みとして室温を29度に引き上げることも考えられるが、その場合には、職場における熱中症を予防するよう周知を図らなければならない」

というような説明がある。

   これだけを読めば、暗に29度を認めたように取れるが、東京労働局によれば、この通達は29度を認めたのではなく、逆で

「オフィスビル等の室温設定を見直す場合にあっては、まず、室温を28度とすることについて、改めて強く推奨し、各需要家の取り組みの徹底を図ることを基本とする」

という文章が文頭にあるため、29度にならないように徹底させろとの通達だった。29度の部分は、冷房機が故障したり、電力が確保できなくなったりするなど何か不測の事態が起きたとき、働く人たちの健康を守ることを説明したものということだった。

「この通達を29度が認められたと読んだとすれば、勘違いということですね」

と東京労働局では話している。

姉妹サイト