東京地方裁判所は小沢一郎・民主党元代表に無罪の判決を言い渡した。この政治的な意味合いがどうなるか。輿石東幹事長は連休明けに小沢氏の党員資格停止を解除する手続きをはじめる考えを示した。
小沢氏のグループは消費税率引上法案の反対急先鋒だ。今回の無罪判決でその勢いは高まるのは当然で、民主党内での小沢氏の存在感は高まるだろう。
野田・谷垣両氏は「増税双生児」
もっとも、その動きは、別のベクトルにも働く。民主党の谷垣自民への傾斜である。もともと、野田佳彦総理と谷垣禎一自民党総裁は、財務省が生み出した「増税双生児」といわれるほど、増税指向が共通している。2012年4月24日に出した自民党の次期総選挙のマニフェストで、はやばやと消費税10%を打ち出している。
野田総理にとって消費税増税を国会で通さないと9月代表戦再選はない。谷垣総裁も、解散総選挙に追い込まなければ、やはり9月の総裁選挙の再選はない。
ということは、両者にとってベストな解は、今国会で消費税増税を通して総選挙するというものだ。谷垣自民が消費税増税法案に賛成すれば、小沢氏のグループが反対しても消費税増税法案は通る。解散は野田総理一人の判断でできる。
野田総理と谷垣総裁である限りは、この戦略は多少の波風はあっても、基本方向は揺るがないだろう。いってみれば、国会会期末には結論が見えている「プロレス」なのだ。最後のフィニッシュ・ホールドまで、いろいろな殴り合いはあるかもしれないが、最後は時間内におさまると私は見ている。
特に、このシナリオは財務省に好都合だ。野田-谷垣コンビは消費税増税での最強布陣なので、これをみすみす逃すはずがない。勝栄二郎・財務事務次官は6月に定年になり、最近その延長を野田総理は了承したという話があるが、時間内に「プロレス」が終われば、その必要もなくなる。
増税シナリオ「決着」6割、「ご破算」4割
いろいろな殴り合いの中には、消費税増税の特別委員会審議もあるだろう。その際、民主党は、社会保障関係法案を取り下げていくだろう。もともと、民主党の社会保障と税の一体改革は、社会保障という薄皮で中身は消費税増税たっぷりの薄皮饅頭だ。
最低保障年金や後期高齢者医療制度廃止後の制度もない。厚生年金と共済の一元化も、公務員労組に配慮して安倍政権時代に自民党が提出した改正案にすら及ばないモノだ。
それら社会保障は薄皮なので、少し修正すれば、自民党としても消費税増税に堂々と賛成できるようになるだろう。民主党内で、消費税増税のために案文修正が行われた。景気回復や歳入庁の設置などだ。これらは自民党の要求で修正されるという話もでている。逆にいえば、修正するという話は消費税増税に賛成という意思表示でもある。消費税増税「プロレス」は着々と進行中なのだ。
「プロレス」は、時間が延長されるかもしれない。あまりに出来レースがわかると不味いからだ。しかし、6月末の国会会期延長になると、9月の代表戦、総裁戦の前倒しという議論もでてくるので、時間延長は慎重に検討されるだろう。
この「プロレス」の波乱要因は、民主党内の反対派が小沢氏のグループ以外にも広がることと、自民党内で野田民主を倒閣できる見通しが広がったり、谷垣降ろしの動きが出たりすることだ。そうなると、9月の代表戦、総裁戦の前倒しになり、消費税増税は仕切り直しになる。殴り合いが本気になって「プロレス」ご破算だ。
消費税増税「プロレス」について、「決着」の確率は6割、「ご破算」の確率は4割と見ている(私の希望は後者だが)。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。