米アップルが、中国におけるタブレット型情報端末「iPad」の商標権をめぐって訴訟に巻き込まれた挙句、敗訴となった。販売停止までも命じられ、近々発表ともうわさされる新型モデルの中国発売に影を落としそうだ。
さらに「アイフォーン(iPhone)」の商標権を主張する中国企業まで登場。日本でも数年前、「讃岐烏冬(讃岐うどん)」をはじめ特産品や地名が中国で商標登録されて騒動が起きたが、今度はアップルが苦しんでいる。
照明器具メーカーが「iPhone」の登録を申請
中国で「iPad」の商標権を主張しているのは、中国・広東省のIT機器メーカー、唯冠科技だ。同社によると、2000年ごろに台湾のグループ企業が世界各地で「iPad」の商標権を取得していたという。その後、アップルがこのグループ企業から商標権を買い取ったが、中国だけは唯冠科技が権利を持っていたため対象外だった、というのが言い分だ。
アップルは広東省深セン市の裁判所に、中国における商標権の認定を求めたものの2011年12月に敗訴。アップルは控訴したが、追い打ちをかけるように2012年2月16日には、広東省恵州市の裁判所が、市内の電器店に対して「iPad」の販売停止を命じた。ロイター通信によると、唯冠科技は中国国内40都市の商務当局に「iPad」の販売差し止めを求めているという。全土で同様の処分が下されれば、アップルにとって大打撃となるのは明らかだ。
悩みは「iPad」にとどまらない。ここにきて「iPhone」の商標権も雲行きが怪しくなってきたのだ。2月20日付の中国の英字紙「チャイナ・デイリー」(電子版)によると、中国・浙江省にある照明器具メーカーを含む6社が、政府商標局から「iPhone」の登録に関する予備的な認可を受けたという。
商標局のウェブサイトで「iPhone」の商標登録データを検索すると、最初に出てくるのはアップルだが、ほかにも中国企業の社名や個人名がずらりと並ぶ。ある特許事務所に取材すると、中国の商標登録は「先願主義」、すなわち「早いもの勝ち」で、特定のモノやサービスに対する手続きだという。このルールに従えば「iPhone」の商標権はアップルに帰属するはずだが、仮にアップルがスマートフォン以外で登録していなければ、別の個人や法人がほかの物品を「iPhone」として申請することは可能だ。実際に日本経済新聞(電子版)は、浙江省の企業は2010年に照明などの分野で「iPhone」を申請したと伝えている。
無名企業にブランド傷つけられたら一大事
スマートフォンやIT機器とは何の関連もない照明器具に「iPhone」と登録して、何のメリットがあるのだろうか。前出の特許事務所は、あるブランドが有名になり、さまざまな商品にそのブランド名が付けられるようになったときに「チャンス」が訪れるのだという。先回りして特定の商品やサービスの商標をとっておき、「本家」に対して後日商標権を高額で売却するのだ。
ただ「iPhone」を考えると、スマートフォンとかけ離れた製品やサービスにまでアップルが名付けるとは考えにくい。それでも「たとえ別の製品でも、無名の企業に『iPhone』の名称が使われてブランドが傷つく事態にでもなれば、アップルにとっては一大事」(特許事務所)。無用なリスクを避けたいアップルに対して、取引を有利に進められるという計算がはたらく。
この照明器具メーカーが登録申請した2010年、「iPhone」は既に世界的なブランドに成長していた。2009年には中国でも発売を開始している。ところが日経新聞によるとこのメーカーは「2010年時点ではiPhoneは有名ではなかった」と強弁、自社の正当性を訴えてアップルを揺さぶる。
こうなるとアップルとしては、広い範囲で「iPhone」や「iPad」の商標を登録するしか自衛策はない。チャイナ・デイリー紙によるとこれまでにアップルが中国で「iPhone」として商標登録したのは14分野で、「iPad」は9分野あるが、そこから「漏れた」分野を突いて39の個人、法人が「iPad」「iPhone」を続々申請している。商標権を主張する中国企業の意図が権利の売却益だとすれば、アップルとしてはいまのところ、しぶしぶ要求を飲む以外に方策はなさそうだ。