女性は年齢を重ねるにしたがって卵子が「老化」し、妊娠しにくくなる――。テレビ番組で取り上げられたこのテーマが話題を集めている。
20代は仕事に没頭し、40代になって子づくりを始めたがなかなか妊娠せずに悩む女性を、番組では紹介した。インターネット上では、「若いうちに子どもをつくりたくても、仕事を考えると簡単にはいかない」という嘆きが聞こえる。
体外受精を「魔法の治療」と勘違い
「卵子の老化」を取り上げたのは、2012年2月14日に放送されたNHKの「クローズアップ現代」だ。近年は夫婦ともに健康体なのに、なかなか妊娠しないというケースが増えているという。不妊治療の経験がある夫婦は、6組に1組に達する。妊娠は年齢が増すにつれて難しくなり、不妊治療がうまくいって子どもが生まれる割合は、35歳で16.8%だが、40歳になると8.1%まで下がる。一方、不妊症に悩む女性は20代前半だと6%に過ぎないが、40代では64%にまではね上がる。
その要因が卵子にあるという。卵子は生まれた時から体内にあり、新たにつくられることはない。年齢とともに卵子も年をとり、数も減っていく。番組内で名古屋市立大学大学院産科婦人科の杉浦真弓教授は、卵子が老化するにしたがって染色体にも異常が起こりやすくなり、流産や受精障害といったリスクが発生する可能性が増すと説明した。
番組で紹介された44歳の女性は、40歳で結婚して現在不妊治療を受けている。体外受精を受けた回数は20回以上だが、子宝に恵まれない。結婚すれば子どもができると思っていただけに「どんなにがんばっても結果が出ない」現実に落ち込み、そんな妻を見て夫も心が締め付けられると苦しい胸の内を明かしていた。
杉浦教授によると、年齢にしたがって卵子が老化する事実を知らない人は多いという。原因として学校での教育不足と、マスコミ報道で比較的高齢でも妊娠した芸能人が取り上げられると「自分も大丈夫」と思わせてしまう点を挙げる。また、体外受精が「魔法の治療」と勘違いする人も多いと指摘。必ず妊娠すると思い込んでいたのに結果が伴わず、傷つく人は少なくない。
現時点では、老化した卵子を若返らせる有効な方法はないようだ。
44歳の妊娠は「非常にまれ」
ツイッターでも、「卵子の老化」は議論の的となった。純粋に「知らなかった」と驚く声がある一方で、若いうちに出産したくてもできない厳しい状況を批判する人もいる。仕事を抱える女性にとっては、たとえ20代前半で妊娠を望んでも、「キャリアを積んでからでないと仕事のペースを落として出産、子育てする余裕が持てない」ため、時期を待たざるをえないという悩みだ。
産婦人科医で、「女医が教える本当に気持ちいいセックス」などの著書がある宋美玄氏も、番組の感想をツイッターで披露した。卵子の老化について、「知ってるだけで早く妊娠できるわけじゃないのが現代日本。特にキャリア女性にとって」とつづり、「本人だけの責任じゃないのよと声を大にして言いたいわ」と強調した。
一方で宋氏は、あるバラエティー番組で、44歳で結婚したタレントに子づくりについて聞いていたことに触れ、「視聴者は44歳でも十分妊娠できると誤解するだろう」と警鐘を鳴らす。44歳の妊娠は「非常にまれ」だと言うのだ。卵子が老化するという現実に傷つく人は多いだろうが、「でも知らないでいて将来後悔する人が一人でも減って欲しいし、『何歳でも望みを捨てずに妊娠がんばって』という方が残酷だと思うのだ」と、専門家の目線で冷静に分析している。
番組では、若いうちに卵子を凍結して保存しておく女性も登場した。だが杉浦教授は、「妊娠が確約されているわけではない」と慎重だ。老化した卵子から、遺伝情報を含む「核」を取り出して若い卵子に移植する研究も紹介されたが、まだ基礎段階で実用化のメドは立っていない。現状では、まず各人が「妊娠には期限がある」という事実を認識したうえで、仕事と出産の両立をどうするか考える必要がある。