岩波書店が、社員の募集要項に社員や著者の紹介状が必要だと初めて明記し、「縁故採用」を事実上宣言したことをめぐり、波紋が広がっている。ネット上では賛否両論で、厚生労働省が調査に乗り出す方針を明らかにした。ただし、識者の中には、岩波書店の手法は合理的だとして賛同する声も散見される。
小宮山厚生労働相「早急に事実関係を把握したい」
今回の問題は、岩波書店のウェブサイトで公開されている2013年度(13年4月入社)の社員募集要項に、応募資格として「岩波書店著者の紹介状あるいは岩波書店社員の紹介があること」書かれていたことに端を発する。ウェブサイトの記載によると、筆記試験と3度の面接が行われる。同社は、これまでも社員や著者から紹介を受けた人を採用したことがあるが、応募条件としてウェブサイト上に明記するのは初めて。
これが事実上の「縁故採用宣言」と受け止められ、小宮山洋子厚生労働相も、「早急に事実関係を把握したい」と述べ、調査に乗り出す考えを明らかにした、
岩波書店の採用担当によると、応募者が1000人を超える年も有る一方、実際に採用される人の数は「1ケタの前半」。一部には「採用コストの削減が目的」とも見方もあるが、同社ではこれを否定。
「選考のバリエーションのひとつ。『どうしても入りたい』という方は、ゼミの先生や、さらにその知人の先生にお願いするなど、方法はある。具体的な行動を起こしてもらえれば」
と話しており、「縁故採用」という呼び方にも反発している。
法律上、縁故採用を明確に禁止する規定はないが、今回の岩波書店の方針には、賛否両論あるようだ。例えば、ヤフーの意識調査の「この応募条件は問題ある?」という問いに対して、現時点で約2万5000票が寄せられている。そのうち、43%が「問題ある」、52%が「問題ない」というもので、賛成派が、やや多い。
採用方法に問題があるとする声の中には、
「本音と建前があるから人間 開き直ってんじゃねーよ」
といった、「実際は他社でも縁故採用が行われている」ことを前提にしたものや、
「中には優秀な方もいるとは思うが、コネ入社の社員は使えない、というか迷惑です実際の話」
「お得意先の紹介で採用したのが問題児で簡単に切れずに困ってる企業の話もよく聞くね」
紹介された人物の能力に疑問を呈するものが多い。また、
「片や既に親類縁者のコネを持ってる学生と、片やコネを持とうと努力しなくてはならない学生とではハンデがあり過ぎるね」
と、不平等さを問題視する意見も相次いだ。
紹介状求めると「選考がスムースに進む効果がある」?
だが、採用関係の識者からは、岩波書店を支持する声も多い。例えばブラック企業アナリストの新田龍さんは、ブログの中で「『岩波書店、いい仕事してるな~』と感じ入った次第であり、この宣言には大賛成」と断言。
「著者にアプローチするのは自由だから、全国どこにいても機会は平等」
と、「縁故採用は機会平等に反する」という主張に反論した上で、
「このようなハードルを設けることで、本当に意欲的な応募者に絞られ、選考がスムースに進む効果があるといえる」
と、採用基準として合理的なことや、入社後に辞めにくくなる効果などを、賛成の理由に挙げている。
人事コンサルタントの城繁幸さんも、ツイッターで、
「文字通り関係者の子弟ばっかりなら問題だろうが、推薦状出す人が一次面接官をつとめていると考えればとても合理的だと思う」
と、同様の見解を示している。
テレビのコメンテーターからも、同様の声が上がっていた。例えば、2月3日朝放送の「朝ズバッ!」では、この話題を紹介した後に、みのもんたさんは
「一理あるね、これは」
と、納得した様子。TBS解説委員吉川美代子さんも、
「若い社員でもいいから、自分で電話かけるなり、大学の先輩だろうが何だろうが自分で探して、『紹介状書いてください』って言うくらいでないと、今の時代は駄目だと思う」
と、就活生の奮起を求めていた。