枝野幸男経済産業相と経団連、日本商工会議所のほか、JX日鉱日石エネルギー、クボタ、東芝、シャープ、スズキ、ヤマ ハ、太平洋セメント、三井物産など民間企業14社の代表が2012年1月12~14日にミャンマーを訪問し、 同国が「ポスト・ベトナム」の新興市場として、にわかに注目され始めた。
ミャンマー政府は13日、主要な政治囚の釈放に踏み切り、このまま全政治囚が釈放されれば、米国や欧州連合(EU)が経済制裁の解除に動く可能性が高い。これまで日本企業の進出が限られていたミャンマーで、日本企業は新たなビジネスチャスを狙うが、政情不安やインフラ整備など、解決すべき課題は多いようだ。
一般労働者の賃金は月額52ドル
今回、枝野経産相と産業界代表でつくるミャンマー訪問団は、 現地で政府要人らと会談。両国の友好親善を確認し、条件しだいで日本側に投資の用意があることを伝えた。今回の訪問団は、電機・自動車などのメーカーや総合商社だけでなく、エネルギーやインフラ関連の企業が多いのが特徴だ。米国の経済制裁解除など条件が整えば、「人件費が安く、インフラ整備がこれから進むミャンマーで、日本企業にビジネスチャンスが広がる」(企業関係者)との期待があるからだ。
農村部が多いミャンマーの労働コストは東南アジア諸国連合(ASEAN)の中で最も低い。日本貿易振興機構(JETRO)によると、一般の労働者の賃金は月額52ドルで、中国の462ドル、タイの427ドルはもちろん、ベトナム の152ドル、カンボジアの125ドルと比べても差は歴然だ。中国、タイの人件費が上昇したため、ベトナムに製造拠点を移してきた日本企業は、早くも「ポスト・ベトナム」の製造拠点を模索している。
電力や道路、通信などインフラが未整備
今のところカンボジア、ラオス、バングラデシュに進出する動きが目立っているが、「ミャンマーは労働力が安価なだけでなく、カンボジアやラオスと比べて国民の識字率が高いほか、英国の植民地 だった経緯から英語でコミュニケーションできるなど、進出するメリットが多い。ポスト・ベトナムの最有力候補の一つだ」と、関係者は話す。
だが、進出には課題が多い。現地に駐在員事務所を置く大手商 社は「政治が不安定なミャンマーは政権が変わると、ちゃぶ台をひっくり返すようなことがあり、自由にビジネスをやれる環境にない」 と、不満を漏らす。
課題は政治の不安定さに限らない。企業関係者が指摘するの は、電力や道路、通信などインフラの未整備だ。「日本企業が進出できる工業団地は一つしかなく、電力不足から停電が頻発している。脆弱なインフラに起因するビジネスコストは周辺国より高い」(大手シンクタンク)という。このため、現時点でミャンマーに進出している 日本企業は衣料や靴など縫製業を中心に50社程度で、カンボジアやバングラデシュの半数にとどまっている。
天然ガス、豆類、宝石、木材など資源が豊富
ミャンマーのインフラは電力だけでなく、道路や港湾が未整備 で、道路の舗装率も11%と低い。さらに電話やインターネットなどの通信回線の質が悪いうえ、ベトナムやカンボジアに比べてコストも高い。「日本 への国際電話が1分当たり2.7ドルかかるなど高額で、駐在員が日本や他国に気軽に電話することができない」(JETRO関係者)という。しかし、これは裏を返せば「インフラ整備の余地が大きく、日本企業が進出するチャンス」とも言える。
さらにミャンマーは天然ガスのほか、豆類、宝石類、木材など資源が豊富だ。現在、ミャンマーは天然ガスをタイや中国、インドに輸出しているが、エネルギー確保の多様化を狙う日本にとって、ミャンマーが魅力的なのは言うまでもない。
一方、ミャンマーが「ポスト・ベトナム」と注目されることに ついて、安い労働力を目当てに現地に進出した日本の縫製メーカーなどの間では「ミャンマーに大手の電機や自動車メーカーが本格的に参入してくると、労働力が足りなくなり、将来的に労働コストの上昇につながるのではないか」との警戒感が早くも出ている。