マニフェスト(政権公約)に「書いていない」消費税増税を推進する野田佳彦首相を「ブーメラン」が襲った。
かつて、「(マニフェストに)書いていないことをやる」自民党を痛烈に批判した野田氏の演説の動画がインターネット上で改めて注目され、跳ね返って野田首相自身への批判につながっているのだ。「民主党ブーメラン」がしばしば話題となるインターネット上では、「今度のは巨大ブーメランだ」といった声も出ている。
「けしからん」と当時与党の自民党を激しく批判
「(マニフェストに)書いていないことはやらない。これがルールです」「書いていないことを(自民党は)平気でやる。これはマニフェストを語る資格がない」
野田氏は、政権交代選挙となる2009年8月の衆院選の街頭応援演説で、こう言って当時与党の自民党を激しく批判した。演説時の肩書きは党幹事長代理だった。演説の様子は、動画配信サイト「ユーチューブ(YouTube)」で見ることができる。
2012年1月20日付の朝刊で朝日新聞が、「首相に不都合な動画」などの見出しで、「(映像が)話題を呼んでいる」と報じた。
対象動画は当時の演説後間もなく投稿されたもので、コメント欄は投稿できないように設定されている。個人ブログなどでは、朝日新聞報道を受け、「巨大ブーメラン!って感じ」と感想が書き込まれている。
野田首相は現在、自民党の谷垣禎一総裁らから、民主党のマニフェストに書いていない消費税増税を実施しようとしている、として批判を浴びている。
これに対し、野田首相は1月6日、マスコミ主催の新年互例会のあいさつで、谷垣氏を前にして「マニフェストに書いてあることをやるのもけしからん、書いてないことをやるのもけしからんと言われたら何もできない」と反論した。
しかし、野田首相自身がかつて、「書いてないことをやるのはけしからん」という趣旨の演説を行っていたわけだ。
「4年間は消費税を上げない」発言に賛同していた
該当する演説動画は複数ある。大阪府内の同じ選挙区で複数回、場所をかえて演説したようで、それぞれ別の動画として投稿されている。
交差点の角付近で演説する動画をみると、背広姿の野田氏は時折右手を振り上げながら熱く語っている。マニフェストについて、
「ルールがあるんです。書いてあることは命がけで実行する。書いていないことはやらない。これがルールです」
「(後期高齢者医療制度など)書いてないことを平気で(自民党は)やる。これはマニフェストを語る資格がない」
と断じた。
当時民主党代表だった鳩山由紀夫氏が、「(任期中の)4年間は消費税を上げない」と発言していることにも触れ、
「(税金にたかる)シロアリを退治して、天下り法人をなくし、天下りをなくす。そこから始めないと消費税を引き上げるのはおかしいんです」
と「4年間は消費税を上げない」発言に賛同している。「消費税5%分」にあたる税金に「天下り法人がぶら下がっている」とも指摘し、消費税を上げても「またシロアリがたかるかもしれません」と懸念を示している。
「小骨ではなく、背骨全部を入れ替えるという話」
元内閣参事官で財務省出身でもある高橋洋一・嘉悦大教授に「シロアリ」は退治されたのかどうか聞いてみた。
「されていません」
と即答が返ってきた。「民主党が『天下りはなくした』と主張するのは、定義を変えてごまかしただけで実態は変わっていない、もしくは、よりひどくなった」という。
かつて野田首相が懸念を示したはずの、消費税増税分に「シロアリがたかる」可能性は排除されていないというわけだ。
自民党の谷垣総裁は、1月18日のロイター通信とのインタビューで、野田首相による消費税増税方針について答えている。
「書いてないことは何もするなとは言っていない」としつつ、民主党は無駄の削減をすれば増税は必要ないと主張していたと指摘し、消費税増税について「(マニフェストの)小骨ではなく、背骨全部を入れ替えるという話だ」と批判している。